「TikTokで人気の子」を「雑誌の表紙を飾っている子」に変える seju・上田悠一郎とGROVE・北島惇起が語る“インフルエンサーがグラビアに挑戦する意義”
なえなのを筆頭に、森香澄ら人気タレント・インフルエンサーを多数抱えるGROVE株式会社の芸能プロダクション部門『seju』。Z世代の女の子たちの憧れとなるタレントを多数輩出し、芸能とインフルエンサーの活動を両立できる場として注目を集めている。そんな中、現在のsejuのタレントは、テレビやインターネットでの露出だけでなく、グラビアでも表紙を飾るなど活躍の場が多岐に渡る。sejuは、グラビアでの勝機をどのように見出していったのだろうか。 【写真】seju・上田悠一郎とGROVE・北島惇起の撮り下ろしカット 今回は、sejuのプロデューサーを務める上田悠一郎氏とGROVE株式会社のCEOの北島惇起氏に、sejuのプロモーション戦略から、いまのsejuの立ち位置まで、たっぷりと話を聞いた。 ・グラビアを始めたきっかけは一つの依頼から ――sejuは、なえなのさんや森香澄さんなど、SNSで同性から人気の高い子が所属しているイメージが強いですが、最近ではグラビアの仕事をするタレントさんも増えていますね。理由を聞かせてください。 上田悠一郎(以下、上田):現在、sejuには40名以上が所属しています。なえなののような初期のメンバーは、おっしゃる通りSNSで同性から人気がある子が多い。でもいまでは10代の若い子から、20代後半の方まで様々なタレントがいますし、同性人気、異性人気のタレントがほぼ半々の割合なのです。だからグラビアをやるタレントが多いという訳ではなく、タレントの適正で仕事を変えているということになります。 ――なるほど、そうだったのですね。どのような経緯で、グラビアの仕事をする流れになりましたか。 上田:業界側に、SNSで人気の女の子たちに声をかけようという動きがありました。そのときうちに白羽の矢が立ち、キャスティングされたということです。 ――グラビアを強みにしていく狙いがあった訳ではなく、依頼があったのですね。 上田:そうですね。依頼があったから挑戦しました。異性人気が高い子は、正直SNSのインフルエンサーの仕事には向いていません。SNSを使ったタイアップ投稿では、基本的に同性から人気のあるコスメなどを宣伝するので、同性人気の子は仕事が潤沢にあります。その一方で異性人気の子には、なかなかそういうところからの声がかかりにくいです。そのような状況で、異性人気の子の仕事の選択肢の一つにグラビアがあるということだと思います。 ――グラビアをやりたくないという子はいないんですか? 上田:もちろんいます。水着になるということに抵抗のある子は多いかもしれません。うちはマネジメントの中でどういう仕事をしていくかを決めるときに、選択肢の一つに水着の仕事もあるということを伝えています。でもそれは無理やりやろうということではなく、もしもやってみたいと思う子がいればチャレンジしましょうというだけの話で。 僕自身も、最初にグラビアの話がきた時に、「果たしてこれを受けていいのかな」という葛藤がありました。そのなかで本人からの了承があって、現場のコンプライアンスを守る姿勢もしっかりしていて、本人たちも楽しくやっていて、なおかつ反響が嬉しいと喜んでいるのを見たときに、これはやってもいいことだし、むしろ勝手に穿った見方をして決めつけてはいけないと思いました。 SNSで自らの手による発信しかやっていなかった子たちが、実際にグラビアをきっかけに、芸能の仕事の裾野を広げることができています。そういうバリューを積むことで、「TikTokをはじめとするSNSのなかで人気の子」から「いま、雑誌の表紙を飾っている子」というふうに認知してもらうことができ、仕事の幅が広がりました。 ――実際にやってみたら、外からの評価も高く発行部数にもつながったように感じます。 上田:そうですね。sejuの直近のグラビアの仕事に関しては、僕らもここまで反響があるとは思っていなくて。SNSからメディアにステップアップできる子は限られているので、SNSでバズったら誰でも地上波のバラエティや大きな雑誌、ドラマというルートを歩めるわけではありません。だから、グラビアでも有名な紙面や、世の中に信頼がある雑誌に掲載してもらえるチャンスがあるのであれば、うちの子たちにも飛び込んでいってもらいたい。そこでネームバリューを得ることは正しい選択なのだと考えていました。そうしたなかで、表紙を飾ったり、ここまでの反響をいただくとは思ってもいなかったですね。 ・何者かになることへの第一歩は踏み出しやすくなった ――グラビアについては、度々是非が問われることもあるかと思います。それでも、グラビアの仕事をすることは芸能界の一歩として大きいものですか? 上田:僕の主観ですが、自分の名を売ることができる、何者かになることへの第一歩は、踏み出しやすくなったように思えます。だから芸能界を目指す人も増えたように感じますね。そのなかで、媒体の数や出方はバリエーションに富んでいてもいいし、グラビアも正しいアクションの一つだと考えています。昔はどの業界もコンプライアンスが甘いところがあったような気がしています。いまは現場の方たちもきちんとコンプライアンスを遵守した上で良いものづくりをしているように感じています。だから僕には、クリエイティブとしてのグラビアがすごくいいものだという認識があります。グラビアは女の子を可愛く世の中に発信していって、まだ知らなかった人に知ってもらうものとして正しいと思っています。 ――一方で、所属タレントさんを守るという意味で一線を引いている部分があれば教えてください。 上田:ここは守るというよりは、需要と供給になると思っています。現代ではSNSが市場調査の場にもなり、タレントがどういうファン層を抱えているかを素人目線でも知ることができる時代になりました。だから同性のカリスマ的な子に、異性ファンにそこまでアプローチをしなくていいと思うし、そこはなによりも本人の気持ちを優先したいですね。僕は、グラビアは限られた人にしかできないものだと思っています。だから、そこに選ばれし人に適正があるのならやってほしいと思う。そうじゃない子に無理やりやらせるのは、大人としても事務所としても違うし、なによりもビジネス目線で違うと思います。需要がない子に、わざわざやらせても何の意味もありませんので。いろんなタレントがいるからこそ多様性があるし、一人ひとりに合わせた戦略を取るのが大事です。タレントの子にとってのいい出方というのを、僕らがこだわってあげるべきだと。そこに一線は引いています。 ――所属タレントの方で、グラビアの仕事をきっかけにマインドセットに変化があった方はいますか? 上田:結構いますね。sejuでグラビアの仕事をしている子は、もともと芸能志向が強くて女優になりたかった子と、逆にあまり芸能知見がないのにSNSでバズっちゃった子の二軸になります。後者の子にとってはグラビアが芸能の第一歩になるので、たくさんのスタッフに支えられて作品が出来るということを現場で知り、仕事としての自覚が芽生えています。あとは、グラビアに載ることは、そんなに簡単なことではないんですよね。いろんなタレントを営業しても全然紙面に載せることなどできないし、表紙なんて本当に限られた子しかできません。それにも関わらず、周りの人は「自分はやらないけれど、簡単にできるからやっているのでは」というスタンスがあるんです。そうじゃなくて、「簡単にできないんだよ」と思うのですが。いざやっている子は楽しいし反響も大きいので、「私はタレントなんだ」という意識が持てると思いますね。 ・芸能経験がクリエイター事務所運営のプラスに ――北島さんは元々芸能事務所で仕事をしていましたが、いまのsejuのプロモーションにご自身の芸能経験が生きていると感じることはありますか? 北島惇起(以下、北島):プロモーションという観点では、ほぼないですね。でも、GROVEのなかで僕の経験が活きているなと思うところはあります。GROVEは2014年からクリエイターマネジメントとしてスタートしました。ちょうどBitStar ProductionさんやVAZさんのようなデジタルのタレント・インフルエンサーなどのマネジメントプロダクションが立ち上がった時期です。しかし、どの会社もスタートアップという形で立ち上げてきたために、マスメディアを含めた、芸能の事業主の方からは、“村”が違うということで距離を空けられていました。そんな状況のなか、かつて僕がワタナベエンターテインメントさんに所属していたことで「北島のところはきちんと芸能として頑張っている」と認めてもらいやすかった。そこはすごくプラスに働きました。 ――そんな経験があったのですね。 北島:どういう出身の人たちなのかという部分で、だいぶ値踏みされる世界かもしれません。そういうときに、理解をいただけたことが良かったと思っています。 ――改めて、スタートアップと古き良き大手企業の人たちが、いい関係でものづくりをできたらとは考えますか。 北島:それはもちろん考えます。でも、そんなことは言っていられない時代になったというイメージですね。ここ1年で感じるのは、両者の間の垣根がなくなってきたということ。それは、彼らがこちら側に活路を見出していることの現れだと思います。芸能とかSNS、インターネットというそれぞれの垣根が、すでになくなりつつあるんです。そんなことよりも日本の不況に備えて、なりふりかまわずやっていかなければいけないというマインドになったと感じます。 ――前回のインタビューで上田さんは、sejuのタレントたちにSNS以外の活躍の場を増やしたいとおっしゃっていましたが、いままさにそうなってきていますね。手応えはいかがですか? 上田:前回に比べると実現しつつあるけれど、長い先を目指しているので、まだまだの部分もあります。 北島:それこそ、一歩一歩着実に前進していると思います。でも、勝ち残るということを考えたときに、僕らの実力ではまだまだ弱い。先を見据えてやらなければいけないことがたくさんありますね。 ――前回は、自社のタレントさんを使ったコンテンツの話も出ていましたね。 北島:そういうのも事務所が持てる武器の一つになるかと思います。 上田:今後、改革していきたい部分がまさにそれです。タレントエージェンシーとなると、キャスティングされることがメインになる。しかしそこはイニシアチブを握れない部分でもあるので、“大いなる力”を持つことにはなりません。どちらかといったらお芝居の舞台やSNSのウェブコンテンツみたいな自社コンテンツを持つことに頭を使うべきだし、そこを改革しなければと思っています。
Nana Numoto