兵庫県知事選でSNSが変えた「同調圧力」の形、“家父長型”から誰も結果責任を負わない“大衆型”が強まる傾向に
■ SNS上で形成された「同志集団」に働く強い承認欲求 まず主要な媒体であるXは、自分がフォローしている人の投稿や、自分と似たような投稿が優先的に表示される仕組みになっている。そのため投稿者は自分の主張がSNS上で賛同され、あたかも多数意見になっているかのように錯覚する。いわゆる「エコーチェンバー現象」だ。 またSNS上で形成された「同志集団」の中では、異論を唱えることが難しい。それどころか、より過激な発言をしたり、話を盛ったりして存在感を示そうという“承認欲求”が働くので、発言がエスカレートしがちだ。 こうしてリアルの世界を活動の場とするタテの力と、SNSなどネットの世界から行動に駆り立てるヨコの力がせめぎ合う構図ができあがった。 タテ方向の力は公式なものだけに信頼性が高い半面、さまざまな制約がある。政党や業界団体、労働組合にしてもマスコミにしても、公共性があるだけにポリティカル・コレクトネス(政治的妥当性)や真実性が求められる。 一方、ヨコの圧力をかけるSNSは誰でも匿名で簡単に発信できる。真偽は厳しくチェックされず、タブーもない。プライベートな情報やゴシップなども書き込める。人々の好奇心を刺激し、群集心理をあおるようなことが自由に発信できるのだ。 実際に選挙戦が終盤にさしかかり、両者のつばぜり合いが激しくなると、SNS上には確信犯的なデマや中傷が飛び交うようになった。 要するにさまざまな制約がないという点で、SNSの方に競争上明らかなアドバンテージが存在するのだ。 ところで筆者はタテ方向の圧力を「家父長型同調圧力」、ヨコ方向の圧力を「大衆型同調圧力」と呼び、近年の傾向として前者より後者が強まってきていることを指摘した(拙著『同調圧力の正体』/PHP新書、2021年)。SNSの普及がそれに拍車をかけているのだ。 こうした傾向は、先に行われたアメリカの大統領選挙の結果にも表れている。