88才の湯守が沸かす「飛龍山の湯」岩手県遠野市の奥地にある病を癒す秘湯を記者が体験レポート
徹夜続きの疲れが消え虫刺されも治った!
最後に、浴室と湯の様子を詳しく紹介しよう。 建物の外から見ると、薪の山とボイラーの横に浴室はあるのだが、ここに浴槽が3つある。大きな檜風呂と1人用浴槽、そして、いちばん奥の浴槽には、御弥陀水の源泉が蛇口から常に流れ出ており、飲泉も可。飲んでみると、雑味やクセのないまろやかな、実においしい水だ。 湯は肌に優しい感触で、しばらくつかって出た後も汗が止まらない。 浴室を出ると窓の向こうに山々の風景が広がり、涼やかな風が吹き抜ける。 「ここのところ徹夜続きで目はかすみ、肩こりも酷(ひど)かったのに、体が軽く心地よい」と身も心も洗われた。俗世にまみれた垢や汗をきれいサッパリ流せたようで、すこぶる気分爽快だ。 湯の効能は、やけど、切り傷、リウマチ、神経痛、アトピー性皮膚炎などで、お肌にいいのが特徴だそう。 撮影中にカメラマンが虻(あぶ)に刺されたのだが、このときキミさんがひと言、「風呂の霊泉で洗ってみ」と言うのでさっそく風呂場で御弥陀水を手にかけると、「あれ?痒(かゆ)くなくなった!」とカメラマンも驚いていた。 帰京後、長年悩まされていた腰痛や肩こりが嘘のように消えた記者は、「顔の肌ツヤもよくなったんじゃない!?」と、妻に褒められた。実に不思議だ。 風呂と畑と祈りに囲まれたキミさんの穏やかな人柄に触れ、丹精込めて沸かす、ありがたい湯にまた入りたい、と思うのは記者だけではなく、そんな人が繰り返し訪れているのだろう。 「気いつけて。またおいで」 と、見送ってくれたキミさんの姿が目に残る。後継者がいないと、キミさんは寂しそうに語っていたが、いつまでもここにあってほしい。そう願わずにはいられない極上のお湯だった。 撮影/浅野剛 ※女性セブン2024年10月10日号