寒い地域に住む人は太りにくい? それとも太りやすい?
北に住む民族ほど基礎代謝が高くなる?
前回は哺乳類の筋線維組成について考察しました。それぞれの動物が与えられた環境で生存していくために、その筋肉も必要な進化をしてきたと考えられるわけですが、では万物の霊長と言われるヒトはどうでしょうか。 きんに君がサプライズ参戦 真冬に筋肉アピールしたコスプレイヤーたち 直立二足歩行で移動する「猿人」はアフリカ大陸で誕生したとされています。そこから人類は世界5大陸に生息地を広げながら、それぞれの環境に適応すべく、他の動物と同じように必要に応じて変化していったと考えられます。 つまり同じヒトであっても、環境や生活のしかたによって違いがあって当然で、筋肉についても何がベストかという正解はないと言えるでしょう。 筋肉には運動するだけでなく熱を出すという働きもあります。その役割を担うタンパク質として「サルコリピン」「UCP3」の2種類がこれまでに発見されています。こうしたタンパク質がうまく働かないと、エネルギーが過剰になって冷え性を経て肥満になったり、糖尿病になったりすることもわかっています。 これらのタンパク質にも個人差や地域差がある可能性はあります。たとえば北のほうに住んでいる民族は寒さを乗り越えるために熱を出すタンパク質がよく働き、南のほうはあまり働かない、といったことが起こっても不思議ではありません。もしそうだとすると、北に住む民族ほど基礎代謝が高く、太りにくくなるということも言えるかもしれません。 ただ、筋肉ではなく脂肪の側から話をすると、また状況が変わってきます。 まず脂肪は熱を通しにくい性質があるので、皮下脂肪が厚いほど体温が失われにくくなります。「皮下脂肪のコート」を着ていると寒くないというのはわかりやすいですね。したがって「寒冷適応」の一つとして皮下脂肪の増加が起こります。 寒冷ストレスは交感神経を活性化し、アドレナリンの分泌を促します。その結果、体毛が逆立ったり、褐色脂肪や筋での熱産生が高まったり、体表面の循環が抑制されたりしますが、同時にアドレナリンは脂肪分解も促してしまいます。したがって、皮下脂肪を増やすためには、より多くのエネルギーを摂取する必要があります。寒い季節のほうが基礎代謝が上がりダイエットしやすいと言われるのはこのためです。