Z世代に「オールドコンデジ」なぜ流行? 秋葉原のカメラ専門店で聞いてみた
Z世代を中心に勢いを増している“オールドコンデジブーム”。30代の筆者にとって、コンデジは学生時代を彷彿とさせる懐かしい存在だ。だが、その懐かしさを知らない世代の若者のあいだで、なぜかいまコンデジが流行している。 【写真】Z世代を中心に話題のオールドコンデジの数々 流行の火種は、TikTokやInstagramといったSNSだ。アプリ内で「デジカメ」「コンデジ」といったワードを入力すると、写真だけではなくオールドコンデジの入手方法や設定の仕方、画像の取り込み方法まで紹介されている。 今回は、オールドコンデジのコーナーを店内に設置している、中古カメラ専門店『2nd BASE』を訪ね、いまのコンデジブームについてどう感じているのか、現場の目線で語ってもらった。また、具体的にはどの機種が人気なのか、レトロな仕上がりで撮影できる方法やコツについても教えてもらった。 ・音楽業界まで広がりを見せるオールドコンデジブーム 『2nd BASE』は、秋葉原の高架下にあるさまざまな専門店が集まる商業エリア・ 『SEEKBASE』内にある。オールドレンズをメインに取り扱っており、2024年3月16日にオープンした自由が丘の『三宝カメラ』とは姉妹店になる。店内はおしゃれな倉庫のような雰囲気で、所狭しとレンズやカメラが並べられている。筆者はカメラ初心者なのだが、この“自分だけが知っている感”のある空間は、カメラに詳しくなくても思わずワクワクしてしまった。 店長の三村祐太氏は、「最新のデジタル機器と組み合わせることで、レトロな写りをいまのカメラでも楽しむことができます」と店のコンセプトについて語った。『2nd BASE』は、初心者・プロ関係なくカメラの幅広い楽しさを教えてくれる場所のようだ。オールドレンズも気になるところだが、今回はコンデジに焦点を絞って話を伺った。 コンデジのコーナーを設置したきっかけは、とある友人のアドバイスがきっかけだったそうだ。「2022年の秋、海外でファッション関係の仕事をしている友人が『ハリウッドの女優さんや韓国のインフルエンサーがコンデジを使ってて、流行るかも』と、教えてくれたんです。それで2023年の1月ごろに、コンデジのコーナーをつくりました」 「設置した当初はそこまででもなかったんですけど、2023年の春くらいからどんどん売れ始めて、夏ごろからはこちらの在庫が追いつかないくらい売れ始めました。正直1年くらいでブームは収まると思っていたんですけど、むしろ勢いが増しているように感じています」 取材日はまだ在庫が揃っている方だったのだが、平日はほぼ店頭からなくなってしまうほどの人気ぶりだという。「探しに来る方は、高校生から20代の若い世代が多いですね。TikTokで情報をキャッチして来店する人が多いです。写真ならInstagram、動画ならTikTokといった感じで、自身が使っているSNSに合わせて、コンデジを楽しんでいるのではないでしょうか」 コンデジの行き着く先はSNSだと三村氏は語る。2020年ごろから再燃した『写ルンです』に比べ、現像代がかからず充電すれば何度でも使うことのできるデジカメは、若者の求める“手軽さ”にマッチしたのかもしれない。「最近は、音楽関係の方もコンデジを使う人が増えているように感じます。ミュージックビデオの回想シーンなど、要所であえてコンデジで撮った映像を挿入する、といった使い方をしているみたいですね」 「また、Z世代だけではなく、最近は30代や40代の方もコンデジがブームになっていることを認知し始めています」コンデジは若者の世代を中心に流行しているが、徐々に上の世代や映像業界にまで浸透してきたようだ。その影響もあってか、流行っていることを聞きつけ、家に眠っていたコンデジを売りにくる人も増えてきたという。 「人気になるにつれて相場が上がっていますが、ターゲットを若い世代に合わせ、比較的お求めやすい価格に調整しています。」安く手に入り、ポッケに入れて、散歩がてら写真を取りに行く。価格の面を含め、手軽にレトロを楽しめるからこそ、コンデジブームの勢いは増しているのだろう。具体的にどの機種が人気を集めているのか。三村氏に紹介してもらった。 ・注目のオールドコンデジ 「まずはキヤノンの『IXY』シリーズですね。コンデジブームの発端となった海外の方が使っていたのが、この機種だったそうです。キヤノンはコンデジが強いメーカーで、元々定価が高く、写りがいいのが特徴です。とくにこの機種は『IXY』シリーズのなかでも上位機種になります。個人的にはこの角張った見た目も好きですね。古いコンデジは丸みを帯びたフォルムが多いのですが、この洗練されたかたちが気に入っています」 「色味も各メーカーによって、それぞれ個性があるんですよ。たとえば、富士フイルムは元々フィルムメーカーなので、色の研究が発達しています。いまは富士フイルムのミラーレス一眼も人気なのですが、色にこだわる方はコンデジも富士フイルムを選ぶのがおすすめですね」 「パナソニックのLUMIXシリーズは個人的に少し写りが甘いのが特徴だと思っていて、オールドコンデジがブームになっているからこそ、逆にパキッと写らない感じがちょうどよかったりします。こちらも探しに来られる方が多いですね」 『2nd BASE』で取り扱っているオールドコンデジは、2002年から2015年のあいだに流通したものが多い。古い機種から売れていく傾向にあるようだが、三村氏は新しい機種でもレトロ感を楽しむことができると解説してくれた。 「画素数が低い方がお客さまに求められているので、古いものから売れていきます。ただ新しい機種でも設定を調整したら画素数は落とせるので、もし見た目が気に入っていて写りの色も問題なければ、新しい機種でも十分楽しめますよ、という提案をしていますね」 ・時代に逆行した設定方法 そのまま撮影するだけでも十分フィルムライクな写りになるのだが、より粗さや古さを求めるのであれば、設定で自分好みに調整するのもおすすめだ。三村氏に、いまの流行に合わせた設定方法についても語ってもらった。 「キヤノンの『IXY』を例に説明しますね。まずおすすめなのが、『すっきりカラー』です。この設定にすると、全体的な色味が落ちて、少し古い感じの写りになります。あとはホワイトバランス。これは色温度を調整する機能なのですが、たとえばこの設定を“太陽光”にすると、暖色が強くなります。室内で太陽光の設定にすると少し黄色っぽくなってしまうのですが、外で撮影する場合は太陽光の設定がおすすめですね」 「少し前に流行した写ルンですは、フラッシュを焚いてレトロ感を演出する方法が鉄板でしたが、コンデジの色を生かすのであれば、あえて切ってしまうのもありです。また、光を取り込む量を調整する“ISO感度”という機能があるのですが、あえてISO感度を上げ切るとフィルムっぽいザラザラとした写りになります。普通の撮影だとノイズになってしまうので、ISO感度をマックスまで上げて撮影することは考えづらいのですが、いま流行のレトロ感を出すのであれば、これもひとつの方法です。自分で説明していても、ちょっと違和感があるんですよね(笑)」 そう三村氏が苦笑するように、どうやら流行しているフィルムライクな写りを目指せば目指すほど、本来修正するべき設定から逆行するようだ。「いまコンデジを買いに来る若い子は、普通に性能のいいカメラと同じ値段でも、コンデジを選ぶというすごい現象が起きているんですよ」ここまでオールドコンデジを若者に求められている背景には、機能が発達しすぎたことによる“疲れ”もあるのではないかと、三村氏は語った。 「コンデジのほかにも、CDオーディオやレコードが流行っているじゃないですか。スマートフォンに集約されている機能を、一つひとつ分解している流れを感じます」写真は写真、音楽は音楽で没頭したいのに、集約されていると重視したい領域が分散されてしまい、難しくなる。その結果、機能が限られたオールドテックをあえて選ぶ、という流れが生まれたのかもしれない。 ますます勢いを増すオールドコンデジの波。“スマートフォン”という名のオールインワンガジェットを手にしたいま、シンプルに趣味を楽しみたいのであれば、欲しい機能だけを搭載したオールドテックを併用して持ち歩くのもおすすめかもしれない。テクノロジーが進化したいまだからこそ、若者は便利さを使い分けて、好きな趣味に打ち込んでいるのだろう。
はるまきもえ