太陽系大航海時代の「帆船」とは何か ── JAXA森治助教インタビュー
現在は、ソーラー電力セイルによる木星圏のトロヤ群小惑星の探査計画に取り組んでいます。そもそも、IKAROSもこの探査計画の実施に向けた実証試験という位置付けでした。 トロヤ群小惑星を目指す理由は、まず、探査を通じて、太陽系の形成の謎の解明など、学術的な進展をもたらす新たな発見が期待されるからです。 小惑星は、イトカワのようにおもな材料が岩石質と推定されるS型、はやぶさ2がめざすリュウグウのような表面の岩石の中に有機物などを多く含むと見られるC型、太陽系の初期の情報をより多く保っていると考えられているD型、P型に分かれます。トロヤ群小惑星の多数は、このうちD型ないしはP型ではないかとされているのです。 水星にはじまる太陽系の惑星の並びについては今日、誕生した当初から変わらないという説と、入れ替わりがあって現在の順番になったという説の2説があり、論争となっています。トロヤ群小惑星に行けば、太陽系の初期の姿に関する新たな知見が得られて、この論争に決着をつけられる可能性があります。
ほかにも、トロヤ群小惑星は、NASA(米国航空宇宙局)も到達していない、いわば“未踏峰”の小惑星である点も、目指す理由の1つです。 計画では、IKAROSの10~15倍の大きさのソーラーセイルに加えて、はやぶさの2~3倍の性能を持つイオンエンジンを組み合わせたハイブリッド推進を行うとともに、巨大なセイルの全体に薄膜太陽電池を貼り付けて、木星圏でも十分な電力を確保する方向で検討が進んでいます。 スケジュールはまだ決まっていませんが、2020年代の打ち上げを目指しています。打ち上げから約11年かけてトロヤ群小惑星に行き、子機による着陸や試料採取・その場分析を行います。さらに親機で試料を持ち帰る計画ですので、世代を超えたミッションになるでしょうね。
生物の中に組み込まれた外の世界への興味
最後に、森氏に「人類はなぜ宇宙を目指すのか」その理由を聞いた。 やはり、人類には、外の世界を見てみたいという興味が備わっているのだと思います。15世紀に大航海時代でアメリカ大陸の発見などをへて、地球上はだいたい自由にどこへでも行けるようになりました。この計画も、「太陽系大航海時代」と位置付けていて、太陽系を自由に行き来できるようにしたいという目的があるのです。 人類だけではなく、太古の昔、魚は川をのぼり、陸にあがって、やがて空を飛ぶなど、活動範囲を広げていきました。外の世界への興味は、生物の中に組み込まれているのではないでしょうか。 (取材・文:具志堅浩二)