演説会場の入り口で金属探知機を使った検査を受ける来場者＝20日、静岡県西部

　衆院選のさなかに自民党本部と首相官邸が襲撃された事件を受け、静岡県内でも候補者の陣営や県警が警戒を強めている。2022年に安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件と23年に岸田文雄前首相の演説会場に爆発物が投げられた事件が起きて以降、全国規模の国政選挙は初めて。各陣営は有権者との触れ合いと安全確保の両立にジレンマを抱えながら選挙戦に臨んでいる。 　「かばんの中身を見せてください」。20日午後、候補者応援のため首相経験者が訪れた県西部の演説会場。入り口でスタッフが金属探知機を使った身体検査や手荷物検査を実施した。拍手で迎えられた首相経験者の周囲を10人近いSP（警護官）らが固め、物々しい雰囲気が漂った。 　同じ日に県中部の陣営が開いた決起集会では、会場の公園に柵で囲まれた聴衆スペースが設けられた。多くの警察官が配備され、公園の周囲に立ち止まらないよう声をかけた。安倍氏の銃撃事件以降、要人警護の現場ではこうした光景が日常的になったが、陣営関係者は「自民党本部などが襲撃された事件を受け、警備レベルを上げた」と話した。 　選挙戦で候補者は有権者と握手を交わすなど触れ合いを重視する。街頭演説や集会は主張や政策を直接訴える絶好の機会だが、安全確保の観点から不特定多数が集まる屋外ではなく、手荷物検査などを受けた聴衆に限定できる屋内を選ぶケースも目立つ。 　前職の陣営は「有権者と幅広く触れ合うのが選挙活動。事件で距離が遠くなるのは問題だ」と指摘。新人の陣営は「大物弁士を呼びたいのはやまやまだが、警備対応の負担が大きい」ともどかしさを募らせる。 　安倍氏と岸田氏の事件はいずれも選挙期間中に発生し、要人警護の難しさを浮き彫りにした。今回の事件では容疑者が自民党本部前で火炎瓶とみられるものを投げた後、官邸前の防護柵に車で突入。警察庁は警護の徹底を都道府県警に改めて指示した。 　県警は今回の衆院選で警護対策室を設置し、厳しい警備態勢を敷いている。演説会を主催する陣営に対して▽屋内など安全な場所の選定▽自主警備や誘導員の配置▽警護対象者の動線分離や聴衆との距離確保－などを要請。関係者は「要人警護と聴衆の安全確保に万全を期す」と強調した。