コロナ禍乗り越え 2年ぶりの「春」 九州・山口6校選出 第93回選抜高校野球
今年こそ夢舞台へ――。29日開かれた第93回選抜高校野球大会の選考委員会で、出場32校が決まった。九州・山口からは下関国際(山口)、大崎(長崎)、福岡大大濠(福岡)、明豊(大分)、宮崎商(宮崎)に加え、21世紀枠で具志川商(沖縄)が選ばれた。新型コロナウイルスの影響で中止になった前回大会を挟んで2年ぶりの「春」。コロナ禍を乗り越えた選手らは静かに闘志を燃やす。 ◇「絶対に甲子園で優勝する」 長崎・大崎 「やっと3年生に恩返しできた」。出場決定を伝えられた大崎の秋山章一郎主将(2年)は、グラウンドに駆けつけた3年の先輩たちと喜びを爆発させた。 長崎県西海市の離島、人口約5000人の大島にある大崎。佐世保実などを甲子園に導いた清水央彦(あきひこ)監督(49)が2018年4月に就任するまで廃部寸前だったが、徐々に県内の有望選手が集まって19年秋の県大会で58年ぶりに優勝。20年夏も優勝候補として甲子園を眼前に捉えていた。 しかし、新型コロナの影響で夏の甲子園大会が中止に。県の独自大会で優勝したが、その先に甲子園はなかった。「俺たちの代わりに甲子園に行ってくれ」。3年生の夢を背負った今の部員たち。秋の九州地区大会で優勝してついに手繰り寄せた甲子園だった。 後輩の快挙を我がことのように喜ぶ3年生を前に、秋山主将は表情を引き締めた。「先輩を甲子園に連れて行くという思いでやってきた。絶対に甲子園で優勝する」。3年生は引退後も後輩たちの練習を手伝ってきた。前主将の坂口航大さん(18)はすっきりした表情で言った。「本当なら甲子園に行けたという悔しさがあったが、後輩たちのおかげで報われた。自分たちの分まで戦ってほしい」 清水監督は悔しい思いをのみ込んで耐えた3年生をねぎらい、更なる飛躍を誓った。「7割は今の3年生のおかげ。彼らのためにもここで満足せず、もっとチームを進化させたい」【中山敦貴、今野悠貴】 ◇県勢20年ぶり21世紀枠出場 沖縄・具志川商 21世紀枠で春夏通じて初の甲子園出場が決まった具志川商では選手たちが喜びをかみしめた。2020年秋の明治神宮大会が中止になったため今大会は神宮大会枠が振り分けられ、21世紀枠が従来の3から4に増えていた。粟国(あぐに)陸斗主将(2年)は「選ばれるか選ばれないか分からない中、授業中も緊張が解けなかった。校内放送で出場決定を聞いてうれしかった」と顔をほころばせた。 選手たちは商品の仕入れから販売までの流れを模擬体験する学校行事「具商(ぐしょう)デパート」でも中心的な役割を担い、将来に役立つ資格を取得しようと情報処理や簿記などの検定も積極的に受けてきた。OBでもある喜舎場(きしゃば)正太監督(33)は「これまでの取り組みが間違いではなかったと証明された」と手応えを語る。 沖縄では20年夏にも新型コロナウイルスの感染が急激に広がり、新チームになって約1カ月半練習できなかった。感染終息を見通せず今後の大会もどうなるか分からない中、粟国主将は選手らに伝えた。「秋が最後の大会になるかもしれないという覚悟でやろう」。奮起した選手らは県大会で準優勝。初出場の九州地区大会では8強に入った。 沖縄からの21世紀枠での選出は制度が創設された01年の宜野座以来20年ぶり。宜野座は笑顔を絶やさない「さわやか野球」で旋風を起こし4強入りした。粟国主将は「自分たちはチャレンジャー(挑戦者)。攻めの気持ちで全力で相手を倒しにいく」と力を込めた。【竹内望、遠藤孝康】 ◇「絶対に勝ち上がりたい」 大分・明豊 午後4時過ぎ、グラウンドで川崎絢平監督からセンバツ出場が決まったことを伝えられた明豊の選手らは、マスクを着けたまま真剣な表情で監督の話に耳を傾けた。 前回のセンバツ中止が決まった2020年3月11日、前々回の4強を超えて優勝を目指していた当時の選手らはショックに打ちひしがれた。夏の甲子園も中止になり、目標の日本一に挑むチャンスさえ失った。 そんな先輩の姿を目の当たりにしてきた今の選手たち。昨夏のセンバツ交流試合でメンバー入りし、新チームでは主将として「春切符」をつかんだ幸修也選手(2年)は「3年生のためにも日本一を目指したい」と先輩たちの分まで活躍することを誓った。 センバツ交流試合で甲子園のマウンドに立った太田虎次朗投手(2年)は前日夕、3年生の先輩でエースだった若杉晟汰さん(18)に部室で声をかけられた。「俺たちは日本一を目指すことができなかった。俺たちの代わりに甲子園の頂点をとってくれ」 若杉さんの無念をひしひしと感じた太田投手は決意を新たにした。「ずっと背中を追ってきた尊敬する先輩に夢を託された。絶対に勝ち上がりたい」【辻本知大】