ひたすら我慢することを強要…パートやアルバイトに理不尽な「カスハラ」の処理を押し付ける"社員さん"の論理
■会社として、カスハラには断固とした対応を取ると宣言する まずは会社として、カスハラには断固とした対応を取ると宣言するところから始めましょう。これは加害者への牽制のみならず、従業員に対する表明でもあります。次に本社や本部などに「お客様対応窓口」を設け、トラブルが発生した際の対応は全面的に専門部署が引き受ける体制を整備するとよいでしょう。 クレーム処理を現場に任せると従業員の負担となるばかりでなく、組織として知見を蓄積できません。また事後対応だと加害者はすでに現場を去っており「次に生かす」発想にもつながりにくいのです。 現場で発生した事例や有効な対策は、組織全体で共有します。医療や介護の現場ではシフト交代の際などにスタッフが集合して情報共有がなされる機会がありますが、コンビニなど少人数で回すチェーン店などでそうした機会があるケースは聞いたことがありません。 本部などで店長やリーダー向けに研修が行われても、内容はおろか研修が行われた事実すら末端の従業員には知らされないケースが多いようです。大きな組織の場合、すべての従業員にカスハラの対応を覚えさせるのは現実的ではありません。ですが「上司は研修を受けて対応策を知っている」と理解しているだけでも、信頼資産は積み上がります。 そして、最も大切なのが「従業員を大切に思い、成長を支援するピープルマネジメント」です。特に顧客対応の多くをパートやアルバイトが担っているサービス業で、成長支援を視野に入れたマネジメントがある事例は稀有です。 「人が辞めていく」「新しい人が採れない」と嘆いているリーダーほど、売り上げや在庫管理にしか興味がなく“人を育てる”視点に欠けている傾向が見てとれます。会社としても非正規雇用者は育成対象にはなっておらず、いつでも替えが利く労働力という扱いです。 裏を返せばそれがゆえにパートやアルバイトをカスハラの矢面に立たせ、傷つき疲れて辞めていったら新人に交代するという、場当たり的な対応しかできなかったのではないでしょうか? こうした発想を転換できなければ、あなたの職場に未来はありません。 パートやアルバイトも現場で働く大切な人材です。労り、気遣い、人としての成長を見守り、支援する。時には皆で集まり、分け隔てなく意見を出し合い、不安や不満を聞いてあげる。そのようにしてチームとして助け合い、支え合う空気を醸成できればこそ、カスハラに挫けない強い組織になるのです。 ビジネスを行う組織にとって、利益をもたらしてくれる顧客の言動を制するような施策は、たとえそれが迷惑行為であってもやりにくいかもしれません。しかし、手をつけるなら、カスハラに世間の耳目が集まっている今こそ絶好のチャンスです。旗は立てやすいときに立てるのが、ビジネスの鉄則です! ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 小林 祐児(こばやし・ゆうじ) パーソル総合研究所上席主任研究員 上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。NHK放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年パーソル総合研究所入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマの調査・研究を行う。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』(KADOKAWA)、『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(光文社)、『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』(ダイヤモンド社)など共著書多数。新著に『リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社新書)、『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(インターナショナル新書)がある。 ---------- ---------- 田村 元樹(たむら・もとき) パーソル総合研究所研究員 大手医薬品卸売業社から政府系シンクタンクへ出向。民間シンクタンクや大学の研究員、介護系ベンチャー企業の事業部長を経て現職。専門分野は公衆衛生学・社会疫学・行動科学。 ----------
パーソル総合研究所上席主任研究員 小林 祐児、パーソル総合研究所研究員 田村 元樹 構成=渡辺一朗