「夏の“怖い”思い出にしてほしい」清水崇監督と渋谷凪咲が明かす、学園ホラー『あのコはだぁれ?』の舞台裏
「呪怨」シリーズ、『犬鳴村』(20)などを手掛けてきたジャパニーズホラーの旗手、清水崇監督の最新作『あのコはだぁれ?』が7月19日(金)より公開される。主人公の君島ほのかを演じるのは、本作が映画初主演となる渋谷凪咲。生徒役には『違国日記』(公開中)の早瀬憩、『君たちはどう生きるか』(23)の山時聡真らフレッシュな顔ぶれが揃った。 【写真を見る】渋谷凪咲、絶叫!あまりの恐怖に震え上がった『あのコはだぁれ?』 PRESS HORRORでは清水監督と主演の渋谷へのツーショットインタビューを敢行し、制作秘話やホラー映画ならではのこだわり、清水監督が「新たな渋谷凪咲に出会えた」と振り返る作品への手ごたえについて語り合ってもらった。 ■「初めて観たホラー映画が清水監督の『呪怨』だったんです」(渋谷) とある夏休み、臨時教師として補習クラスを担当することになったほのか(渋谷)は、一人の女子生徒が屋上から飛び降り、不可解な死を遂げるところを目撃してしまう。そして、“いないはずの生徒”の存在に気づきはじめたほのかと5人の生徒たちが、“あのコ”にまつわるある真実にたどり着き…。 ――『あのコはだぁれ?』を監督した経緯、物語の着想について教えてください。 清水崇監督(以下、清水)「昨年、『ミンナのウタ』というGENERATIONSメンバーのみなさんが出演した作品を監督したのですが、『ホラーは苦手だけどアーティストのファンだから』と観ていただけたり、逆にホラーファンの方が作品をきっかけにGENERATIONSのファンになったりと、珍しい相乗効果が生まれて嬉しかったんです。自分にできることをやっていくことも大事だと気付かされました。『ミンナのウタ』が公開になるころには本作の構想が僕の頭のなかで生まれつつあって、松竹のプロデューサーにも話し始めていったんです。その頃はまだ、主人公であるほのかのイメージも全く固まっていなかったですけど」 ――渋谷さんに主演をオファーした決め手は? 清水「監督としてはいつも、それまでに“ホラー”のイメージがない方に主演をやっていただきたいと思っています。今回は、渋谷さんがジャンル関係なく、映画の主演、座長を務められるのが初めてということで相当なプレッシャーもあったと想像できるのですが、ちょうどNMB48を卒業されるタイミングでいろんなことに挑戦していきたいという声も聞こえてきていたので、ひょっとしたら…と。僕のなかでもまだ固まってなかった君島ほのかというキャラクターを『一緒に作っていってほしい』と持ち掛けるところから始まりました」 ――渋谷さんは、本作のオファーを受けてどのように感じましたか? 渋谷凪咲(以下、渋谷)「グループを卒業する時に、『叶うかどうかはわからないけれど、演技のお仕事をしていきたい』と思っていたんです。私の初めて観たホラー映画は、それこそ清水監督の『呪怨』なんですが、まさか清水監督の作品に出演させていただけて、しかも主演ということで驚きました。不安もたくさんあったのですが、監督が本当に優しく、現場も愉快で楽しくて。わからないところは相談させていただきながら、君島ほのかを作っていきました。撮影に入ってからはプレッシャーや緊張を監督たちに消していただいたので、目の前で起きること一つ一つに対して100%の自分で向き合えたと自信を持って言えるぐらい、みなさんのおかげで不安なく突き進むことができました」 ――ホラー映画の現場にはどのようなイメージを持っていましたか? 渋谷「ホラー映画の撮影現場はどんよりしているイメージがありました。でも、実際に経験してみると本当に楽しくて。監督もスタッフのみなさんも誠心誠意、キラキラ素敵な気持ちで臨んでいましたね。ホラー映画を観てしまうと呪われるんじゃないか…?なんて想像をしたこともありましたが、作品には関わった人たちの一生懸命な気持ちがこもっていることを知りました。お化け役の方についても、演じられている俳優さんの人となりを知ることで怖くなくなったんです。なので、お化けと出会っても、ちゃんとゆっくり話してみようと考えるようになったのが新しい発見ですね(笑)」 清水「こういう発言が渋谷さんらしいですよね(笑)。彼女のこういった“人の良さ”が最初は不安で。皆がそれに慣れちゃうのは果たして良いことなんだろうか?と自分に問いながら臨んでいる状態でした。楽しんで参加していただけたのなら良かったです」 ■「日常生活の延長線上で起きないと、超常現象にリアリティは生まれません」(清水) ――千葉や埼玉の山中でのロケや、都内にスタジオを組んで撮影したと伺っているのですが、ロケ地やセットにこだわりは? 清水「本作に登場する生徒たちは年齢的にも一番多感な時期で、いろいろな家庭事情を抱えている子もいるので、そういう子たちが学校以外のシーンでも日常的にいそうな場所が必要だと考えていました。例えば、劇中にゲームセンターが登場するのですが、権利関係の問題で映画やドラマの撮影ではとても扱いづらい場所なんですよ。でも、映画を観てくれた学生が『あ!俺と同じじゃん』と気持ちを重ねてくれることが大事。日常生活の延長線上で起きる超常現象でないとリアリティは生まれないので、そこは意識していましたね。ただ、実際の現場では、装飾やアングルを駆使しゲーム画面などが映らないようにする必要がありましたけど(笑)」 ――渋谷さんにとっては、長期間にわたる撮影も初めての経験だったと思うのですがいかがでしたか? 渋谷「私が特に印象深いのは美術セットでの撮影で、美術さんのこだわりが細部にまで行きわたっていることを実感しました。高谷さなちゃんという生徒のお家に行くシーンがあるのですが、セットとは思えないくらいにリアルで。足を踏み入れるだけで、自然と心がソワソワし始めて落ち着かない気持ちになって、本当に自分がその世界に引きずり込まれたような感覚になりました」 ――清水監督はどのようにして、怖がったり、驚いたりする芝居を引きだしていたんですか? 清水「物語前半のほのかは、自分から主体的に動いていけるタイプではなく、中盤以降から徐々に決意を固めて動かざるを得なくなっていくキャラクターです。後半へ進むにしたがって、強い決意を持った表情が必要になっていきます。この際、どういう反応をすればいいなど、こちらで決めつけてしまうとおもしろくない。渋谷さんに限らず、いつもそうですが…僕の意向や考えを押し付けるのでなく、ある程度の流れや想いを段取り的に説明して『一度思うままに感情でやってみてほしい』、というような指示の出し方をしています。また、渋谷さんはすごく頭の回転が速い方なので、だんだん先の展開を見越した芝居になってくるんですよ。ですから、さまざまな場面で『この現象には、初めて出くわすんだ』『いま思い立った気持ちで、この台詞を発してください』と渋谷さんに言い聞かせていました」 ■「“怖がる”ということは、こんなにも体力を使うんだなと実感しました」(渋谷) ――渋谷さんのなかで特に印象に残っている演技、普段の自分とは違うことをしているなと感じたところはありますか? 渋谷「叫び声を上げるところもあれば、震えて汗が止まらないといったシーンもたくさんあって、“怖がる”ということはこんなにも体力を使うんだなと実感しました。休憩中も誰かと喋ってしまうことで現実に戻されてしまうような気がして、この恐怖から離れないように一人で過ごしてみたり。改めて考えると、それは普段の自分ではなく、ほのかとしての向き合い方で、知らない世界に飛び込んでいるような感覚で楽しかったです。監督からは『本当に怖い時は声が出なくなる』とか、『自分の気配を消すように目だけで周囲を見渡す』とか、いろいろな怖がる表現を教えていただきました。いただいたヒントをもとに演じてみて、監督からOKが出たらそのお芝居は正解だったんだなと判断していました」 清水「結局、現場では監督がOKを出すかどうかを頼りにするしかないところはありますね。ただ、僕はそれが絶対的な正解だとは思っていない、思いたくない性分なので、役者だけでなく、スタッフからも『監督、もう一回やらせてもらっていいですか?』『例えば、こういうのどうですか?』などと言っていただくことはうれしく、さまざまな意見や提案が出やすい現場こそが有意義だし、監督の僕が気付けなかった部分や思いもしなかった発想やテイストも活かして加味できるのがクリエイティブでおもしろい作品づくりに繋がると思い描いて臨んでいます。とはいえ、あちこちの意見に振り回されて監督がブレてしまうと、みんながどうしたらいいかと迷ってしまうので、早めに決断できるように努めています」 渋谷「自分のなかでは『さっきのでよかったのかな?』と不安になることもあるのですが、客観的な判断ができるのは監督やスタッフのみなさんなので、そこはお任せしていました。100%でぶつかってみてOKがでたら、『いまのでよかったんだ』って。でも、実際には作品が完成してみないとわからないですよね。それもまた映画のおもしろさで、埋めたタイムカプセルが掘り起こされるのを待っているような気分です」 ■「劇場の大画面と大音量で体験を共有する臨場感は格別。この夏の思い出にしてもらいたい」(清水) ――もうすぐ『あのコはだぁれ?』が公開になります。改めて、観客にはどんなところを楽しんでほしいですか? 清水「夏休み公開に向けて動きだした企画ということもあり、この夏休みになに観よう?と選んでもらえて、映画館で観て良かった!と今夏のゾクゾク涼しい、怖い思い出にしてもらえると幸いです。ほのか先生が受け持つ瞳という生徒を演じた早瀬憩さんが、いままでホラー映画は怖くて1本も観たことがなく、この現場に入る時に僕がオススメした作品を撮影中の待ち時間などにスマートフォンで観ていたんです。僕は、自分が薦めたとはいえ…『そっかスマホでかぁ…』と、とても歯痒くは感じていたんですが…。撮影が終わって、彼女は試しに…と映画館でホラーを観たそうなのですが、めちゃくちゃ怖かったようで、『スマホで観るのとは全然違った』と言っていました。 当然です!映画監督は画も音もすべてひっくるめて、映画館での上映で観ていただけるのを想定して作品を作っていますし、視聴と鑑賞は別物です。暗いなか…大画面と大音量で集中して見知らぬ人達と体験を共有する臨場感は格別で、スマホやテレビ、モニターで個々に自由に手軽に視聴するのとは同じ作品を観たとは言えないほど変わってきます。ホラーが好きな人はもちろん、苦手な人は苦手な人同士で誘い合いながら、劇場でこそ観ていただけるとうれしいです」 渋谷「劇場で観ていただきたいというのは本当にその通りです。365日あるなかの1日、数時間だけでも、映画館で“怖い”を全身で体感してほしいです。カップルで観に行ったら『キャー!』って驚くのをきっかけにくっついてくれたらうれしいし、一人で観に行ったとしても、スクリーンには誰よりも怖がっている私が映っているので安心してください!」 清水「『怖がっている私が映っているから安心して』…この理屈がよくわからないんですよね(笑)。渋谷さんらしくて、すごく優しいな…と思いますけど(笑)」 渋谷「『渋谷凪咲が主演?』と不安を覚える方もいらっしゃると思うのですが、清水監督には『渋谷凪咲がだんだんと君島ほのかに変わっていく、その過程を観客にも楽しんでもらいたい』とおっしゃっていただきました。私もそんな気持ちで演じさせていただいたので、夏の名物、日本の風情であるホラー映画を存分に味わっていただきたいです!」 清水「うまく相乗効果になるといいですよね。渋谷さんのファンだからと観た方がホラーにハマったり、ホラー好きの方が俳優としての渋谷さんに注目するようになったり。幅広く楽しんでいただければいいなと思います」 取材・文/平尾嘉浩