実質賃金の下落幅拡大と早期マイナス金利政策解除の観測の後退
日本銀行は国債市場の高いボラティリティに配慮して慎重な政策運営か
2023年10月末に日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)の再柔軟化に踏み切ったことで、10年国債利回りは概ね市場実勢で決まるようになったと考えられる。そうした中、米国の長期国債利回りと日本銀行のマイナス金利政策の解除の時期に関する観測の2つの要因で変動を続ける構図だ。 しかし、日本銀行が1月の会合でのマイナス金利政策の解除を見送るとの観測が広がったとしても、近い将来にマイナス金利政策の解除に踏み切るとの観測が揺らぐわけではない。10年国債利回りが短期(政策)金利の向う10年間の平均予測値で決まるとすれば、目先のマイナス金利政策解除のわずかなタイミングのずれで10年国債利回りが大きく変動することは理論的にはないはずだ。 しかし実際には、10年国債利回りは目先のマイナス金利政策解除の時期を巡る観測で大きく変動している。これは、国債市場のボラティリティが過度に高まっていることを意味するのではないか。そして足元での国債市場のボラティリティの高さは、為替市場のボラティリティを高め、その結果、円安が進んでいる。 日本銀行は、こうした国債市場のボラティリティの高さに配慮して、慎重に金融政策の修正を進めていくことになるだろう。その際には、市場との対話を重視し、時間をかけて市場に先行きの政策の軌道を織り込ませていくだろう。 こうした点を踏まえても、春闘直後のタイミングであり、またFRBの利下げ開始と重なる可能性がある4月の決定会合で、日本銀行がマイナス金利政策の解除に踏み切ると決め打つことには大きなリスクがある。予想が外れた場合には、国債市場と為替市場のボラティリティをかなり高めてしまうだろう。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英