羽田で5人死亡の航空機事故、国交労組「人手不足で安全保てない」...遠因の指摘も
24年1月2日という新年早々に起きた羽田空港での日本航空(JAL)と海上保安庁の航空機との衝突・炎上事故。事故を受けて同日、国土交通省の運輸安全委員会は航空事故調査官を羽田空港へ派遣し、調査にあたっている。
JAL機炎上も全員助かる、海保機では6人中5人死亡
衝突したのは北海道・新千歳空港を16時に出発し、17時前後に羽田に着陸する予定だったJAL516便(エアバスA350‐900)と、海上保安庁のMA722(ボンバルディアDHC-8-Q300)。516便の乗員乗客は全員脱出して助かったが、海上保安庁の航空機に乗っていた6人のうち5人が死亡した。この事故の影響で日本航空や全日空(ANA)の羽田を発着する便に欠航が相次ぎ、年末年始の帰省客らに影響を及ぼした。 事故が起きたからには、何が原因だったのかを突き止めることが重要だ。どうしたら今回のような事故を防げるのかを慎重に調査する必要がある。 運輸安全委員会は3日昼に海保機のボイスレコーダーを回収したと明らかにし、6日には日本航空機のボイスレコーダーを回収。聞き取り調査も同日から始まった。調査によれば、海保機の機長は「滑走路に侵入する許可を得ていたとの認識だった」と話したという。また6日付配信の産経新聞は、管制官が516便の次に着陸予定だった航空機に指示をしている最中、海保機が滑走路へ侵入することを見過ごしたとみられると報じている。
「安全体制強化には人員が必要」も、人員抑制方針の政府
もし管制官の見落としも関係しているのであれば、その背景には何があるのだろうか。全運輸労働組合等で組織される「国土交通労働組合(国交労組)」の担当者は、「政府の合理化政策等によって管制官として携わる人手が不足している」と訴える。 担当者によると、管制業務に従事する全国の職員はここ数年、1900~2000人の間で推移。航空管制官と関連の仕事を担当する職員数は、2005年の4985人をピークとして減り続けており、23年には4134人まで減少しているという。 この背景には、14年に政府が閣議決定した「国の行政機関の機構・定員管理に関する方針」が関係している。担当者はいう。「方針が言いたいのは、総人件費を削減するために既存機構の廃止や再編等を行い、工夫して人数を減らせということだ」と。 「特に私たちが注目しているのは、方針の中の『新規増員は(中略)自律的な組織内の再配置によることを原則とし、新規増員は厳に抑制する』という部分だ。これは裏を返すと、政府が各省庁に対してむやみに多い人員の要求をしないように予防線を張っていると見ることもできる」(国土交通労組の担当者) そのうえで、羽田空港の管制官の配置として、A~Dまでの4本の滑走路のうち3本を使用。それぞれの滑走路を各1人の管制官(飛行場管制席)が担当し、さらに滑走路以外の地上走行を指示する管制官(地上管制席)も飛行場管制席とペアになる形で、各1人必要になるという。 さらに、羽田空港への侵入許可を出して管制塔に伝達したり、到着ゲート変更等の調整を行う「調整席」という役割や、管制官から飛行機に対して伝達を行う「管制承認伝達席」が、羽田空港の場合2人配置されている。このほか、全体の調整と統括する「フロアコーディネーター」らが配置され、1チーム約14~15人の管制官が勤務している。 担当者は「安全体制を強化するためのシフト制勤務により、本当はこのチームが6つ必要。新しく人員を配置してほしいときは、3人の管制官を6チーム確保しなければならず、組合では18人必要だと訴えている」と強調する。 「ところが、政府方針の通り新規要員を減に抑制することになっている。そのため、とりあえず国交省は18人に対して6人を要求するから後は現場の工夫で何とかしてくれと数を削られる。その後、国交省は21年度に政府に対して6人を要求したが、政府の答えは3人だった」(国土交通労組の担当者) このような状態では、安全を確保する最低限の人数は確保しているものの、余裕は全くないはず。ひっきりなしに離着陸を行う飛行機を見続けなければならない管制官にかかる負荷が大きくなっている現状もあるのだ。 取材の最後、前出の担当者は「(今回の事故を受けて)報道等で飛行機がいたことを見落とした等と表現される。でも管制官は多忙の中で常に仕事をしており、そのような表現をされると全国の管制官のメンタルは非常に傷つく。あれを過失と言われるならどうやって自分の身を守ればいいのか。管制官は常にこのような状況に置かれていると知ってほしい」と訴えていた。