自由な意見を引き出す「ファシリテーター」に求められる資質とは...中学校で語られた理想的な「対話」のあり方
いままで、「大切な人と深くつながるために」「いじめられている君へ」「親の期待に応えなくていい」など、10代に向けて多くのメッセージを発信してきた作家の鴻上尚史さんが「今の10代に贈る生きるヒント」を6月12日に刊行する。その書籍のタイトルは『君はどう生きるか』。昨年ジブリの映画でも話題になった90年近く前のベストセラーをもじったこのタイトル。なぜ「君たち」でなくて「君」なのか。そこには鴻上尚史の考える時代の大きな変化があった。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『君はどう生きるか』(鴻上尚史著)より抜粋して、著者がいまを生きる10代に贈るメッセージを一部紹介する。 『君はどう生きるか』連載第8回 『多様性の時代、あなたはちゃんと「対話」できてる? 意外と知らない「リーダー」と「ファシリテーター」の違い』より続く
ファシリテーターの仕事とは
リーダーは、議論の中身(コンテンツ)に責任を持っている。でも、ファシリテーターは議論の過程(プロセス)に責任を持つんだ。 この違い、分かるかな? たとえば、4人で話そうとしている時に、君がリーダーなら、「みんなが納得する結果になったか。激しい不満をもっている人はいないか」を考える。結果に責任を持つのがリーダーだからね。 でも、君がファシリテーターなら、「みんな、自分の意見を充分言えたかな。誰かに遠慮したり、気を使ったりして、意見を抑えたり言わなかった人はいないかな」って考えるんだ。これが、「議論の過程に責任を持つ」ということで、それがファシリテーターの仕事なんだ。
ファシリテーターに必要な資質
4人で自分のやりたいことを話し合っている時、君が「のんびりしたい」と強く思っている場合は、なかなか、ファシリテーターになりにくいんだ。結論の希望がちゃんとあるからね。 「何でも自由に意見を出してね」って言いながら、自分が求めている意見の時は微笑んで、違う場合は顔をしかめる先生っていない? 「あ、います!」 教室の片隅から大きな声が飛びました。多くの中学生の笑い声がそれに続きました。 それは、先生がファシリテーターじゃなくて、リーダーになってるんだよね。道徳の授業とかに多いんじゃないかな。こういう時は、いくら「自由に意見を出して」って言われても、みんな言いにくいよね。求められてる意見が決まってるから。 だから、もし、君が「自分は何をしたらいいか特別な希望はない。みんなの意見を聞いてみよう」と思っていたら、理想的なファシリテーターだね。 でもまあ、そうじゃなくても、いったん、自分の要望を横に置いて、議論を導いてみる。それができるようになると、君はみんなから頼りにされる存在になると思うね。もめた時には、君を呼ぼうって思われるだろう。 4人の情報を共有していると、間違いなく、そこから「対話」が生まれるんだ。 お互いの考えていることがよく分かるから、「それは面白そう」「それは興味ない」と具体的にいろいろと判断できるんだ。 「対話」は、それをする前とした後では、「対話」したお互いの関係が変わるんだ。それが、「ただ言葉を交わしたこと」との違いだね。 『まず「対話を“始める”」ために必要なこととは? 中学校の教科書から「対話の前提」を整える術を学ぶ』へ続く
鴻上 尚史