国内のバーバリーブランドはどうなるの? ライセンス契約終了の背景と先行きは
今回のライセンス契約打ち切りの背景には、同社の世界的なブランド戦略があるといわれています。それを強力に推し進めたのが、ダナ・キャランやリズ・クレイボーンなどを経て2006年にバーバリーのCEOに就任したアンジェラ・アーレンツ女史。低迷していたバーバリーを革新的なデジタル戦略や中国・中南米市場の開拓によって再生させ、リーマンショックなど世界的な不況の時期に売り上げを3倍、株価を4倍に引き上げた功労者です。 バーバリーブランドの再構築にあたり、アーレンツ女史はブランドアイデンティティを「デモクラティック・ラグジュアリー(誰もが着ることのできる贅沢)」と定めました。米経済誌『Forbes』のインタビューでは「私たちの出自はコートづくり」と語り、英王室御用達でもあるバーバリーブランドを「特別な人たちの服ではなかった」と形容しています。「デモクラティック」は「世界中どこにあっても、同じブランド価値を共有できること」でもあります。デジタルマーケティングの推進もその同一線上にあり、たとえばバーバリーのeコマースのサイトは、世界6ヵ国語に対応し商品構成も共通。世界中のどこからでも同じ商品にアクセスでき、迅速に購入が可能ということです。 そこで矛盾が生じるのは、各国のライセンシーが展開するローカル商品群。ことによってはブランドの陳腐化すら招きかねません。とくに「価格は英国の半額程度」と言われる日本オリジナルのブルー&ブラックの両レーベルには、そうした指摘がそのまま当てはまってしまいます。 日本にバーバリーブランドを浸透させた最大の功労者は三陽商会にほかなりませんが、日本人の嗜好や体格・体型、所得や気候風土に合わせて商品を「デモクラタイズ」していった結果がグローバルな「デモクラティック」との乖離というのは、三陽商会にしてみれば予期せざる皮肉かもしれません。ちなみに、アーレンツ女史は契約終了発表前の4月30日付でバーバリーCEOを退任、5月にはアップルのSVP(上級副社長)に就任しています。 どちらもコートづくりから出発したバーバリーと三陽商会。ならば、もう少し温情があっても……といった浪花節は通用しないのがライセンスビジネスです。もちろん、ライセンシー側にも「ゼロからブランドを育てる時間やコストが不要、売上高の10%程度のロイヤルティを払えば自社商品を有名ブランドとして販売できる」という旨味があります。一方、ライセンサー側も手間暇かけず、在庫も持たずに製品の現地化とブランドの浸透が図れるのは大きなメリット。そして多くの場合、契約更新のイニシアチブはライセンサー側にあるのが実情です。ブランド価値が確立された旬の市場を狙い、販売権をいただいてしまう。そうした事例は数々あります。 今回、多くの人が連想したのは、1997年11月にアディダスとの28年にわたる契約を打ち切られたデサントではないでしょうか。翌年、同社の売り上げは約40%減、営業利益は半減しました。当時の飯田洋三社長は「ライセンスビジネスは非情なもの。大きく育てるほど問題が出てくる」と『繊研新聞』に語っています。ちなみに、同じ年の2月にはディオールが鐘紡との提携を解消、2005年にはアニエスベーがサザビーリーグと、07年にポロ・ラルフローレンがオンワード樫山、11年にはヘンリー・コットンズがレナウンとの契約を打ち切り、いずれも自社の日本法人が販売を行っています。 デサントはその後、自社ブランドの育成や商標権の取得に舵を切り、社名でもある「デサント」や商標権を取得した「マンシングウエア」「アンブロ」など、自社ブランドで売り上げの80%を占めるようになりました。さらに、韓国を中心とするアジア市場で全体の約半分を売り上げるなど事業体質を転換。およそ15年かけて「アディダスショック」を払拭しています。 三陽商会は契約終了の発表翌日、2014~2018年の「中期経営計画」を発表しました。それによれば、2016年12月期の売り上げは2013年同期から約2割減少するものの、マッキントッシュ(英)とポール・スチュアート(米)、さらに自社ブランドのエポカに注力し、2018年12月期までに売上高を1000億円に回復させる見通しです。その可能性に懐疑的な見方は少なくありませんが、今回のピンチを機に業態転換を期待する声もあります。 前述のように、バーバリーのタオル・寝具類に関する西川産業とのライセンス契約は2011年に終了していますが、百貨店の売り場では「代替商品として取り扱い始めた今治タオルは、サイズも肌触りも日本人向き」といった声があります。また、2010年にライセンス契約が終了した西川のバッグを「ライセンスものはしっかり作り込まれている」と語るユーザーもいます。 もちろん、アパレルとそれ以外の小物とは規模も扱い額も比較になりませんが、日本人やアジアの人々の体格・体型や嗜好に合ったノウハウの蓄積は貴重な財産のはず。容易ではないでしょうが、バーバリーの向こうを張るブランドの育成に期待したいところです。 (文責・武蔵インターナショナル)