新日本酒紀行「千代の光」
● 豪雪の上越から、新潟酒を変える新星現る! 1日の積雪量210センチメートル(1946年)の平地における世界記録を持つ新潟県妙高市は、2024年3月に降雪量日本一を記録した豪雪地。市はかつて頚城(くびき)郡と呼ばれ、越後杜氏の一派、頸城杜氏の里で名杜氏を生んだ地。同市で1860年から酒造りをする千代の光酒造は、全ての酒で吟醸酒と同様のきめ細かな造りを行い、端麗辛口が主流の新潟県で、柔らかな甘味とうま味を守る。「冬季には酒蔵が雪で埋もれ、酒造りには最高の環境です」と7代目の池田哲郎さん。蔵が雪のかまくら状態となり、低い室温が一定に保たれる。蔵の背後の大毛無山(おおげなしやま)に積もる雪は雪解け水となり、清冽で潤沢な井戸水で酒を仕込む。 【写真】「酒造りのこだわり」はこちら!
23年に8代目を継いだのが、長男の剣一郎さん。大学卒業後、東京で会社務めをしていたときに、姉の香美さんが三重県で「而今」を醸す木屋正酒造に嫁ぎ、蔵元杜氏の大西唯克さんの酒を飲んで衝撃を受けた。酒造りの闘志を燃やし、12年に実家の蔵に入社。伝統を守るだけでなく、精米方法を見直し、新型洗米機を導入。上質な麹ができるタライ麹法を取り入れるなど酒質向上に励む。そして新たな提案が、日本酒のアッサンブラージュだ。「世界にただ一つの酒」を創造する楽しさを消費者と共有。また、自身の名を冠した「KENICHIRO」シリーズを14年に立ち上げ、意欲的な新機軸を打ち出す。昨年から生酛造りに挑み、清らかで豊かな味わいは、飲食業界からも大絶賛。「上越から、新潟酒を変える新星現る!」と、期待の大一番だ。
(酒食ジャーナリスト 山本洋子) ※週刊ダイヤモンド2024年6月8・15日合併特大号より転載
山本洋子