村上春樹「素晴らしい音楽も、政治や社会状況とは無縁でいられないんだなあと」当時のブッカーT・ジョーンズの音楽活動から考える
<クロージング曲> Lyle Ritz「LIl' Darlin'」
今日のクロージング音楽はライル・リッツのウクレレ演奏で「リル・ダーリン」です。ライル・リッツはジャズ・ウクレレ演奏の名手ですが、ビーチボーイズのファンには「ペット・サウンズ」のバックでベースを弾いていた人として有名ですね。ウクレレだけでは営業していけないので、腕の良いスタジオ・ミュージシャンとしてベースを弾いていたんです。しかし同じ4弦でも、ウクレレとウッド・ベース、楽器の大きさはずいぶん違いますよね。 さて、ブッカーT・ジョーンズの自伝によれば、音楽の絆で結ばれていたMG's4人のメンバーの間にも、時代の経過と共に微妙な亀裂が入ってきます。1968年にマーティン・ルーサー・キングが暗殺され、黒人社会に大きな衝撃が走り、それを境としてブラックパワーが急速に盛り上がってくるわけですが、白人のスティーヴ・クロッパーにはその出来事の意味がうまく呑み込めずに、ブッカーTはそこに失望を感じます。そしてそのような気持ちのずれは、やがてバンドの解体へと繋がっていきます。そのへんのくだりを読んでいると、MG'sのファンとしてはやはり淋しかったですね。素晴らしい音楽も、政治や社会状況とは無縁でいられないんだなあと。 (TOKYO FM「村上RADIO~ソウル・インストルメンタル・グループ~」2024年8月25日(日)放送より)