アウェーのような大歓声も「楽しんで」 仙台育英のたくましさ センバツ
◇センバツ第4日(21日)2回戦 ○仙台育英(宮城)2―1慶応(神奈川)● サヨナラ打を放った仙台育英の主将・山田脩也は高く拳を突き上げ、仲間と抱き合った。今大会から制度が変更され、初めて適用された延長十回タイブレークを制したのは、夏春連覇を目指す仙台育英だった。 【息詰まる投手戦…慶応vs仙台育英を写真で】 十回、犠打と申告故意四球で1死満塁とすると、9番・熊谷禅の打球が左前に落ちた。サヨナラ打かと思われたが、左翼手の好返球で三塁走者が本塁でアウトになる珍しい「レフトゴロ」で2死となった。 ファインプレーに慶応のアルプス席は沸きに沸き、流れが傾きかけた。その時、山田は須江航監督から声を掛けられた。「切り替えて、試合をしっかり楽しんで」。サヨナラ打と確信した山田は、須江監督の一言で再び気を引き締めることができた。 「ここで決めないと、積み上げてきたものが失われる。最後は執念で打ちました」。初球のスライダーを捉え、今度こそサヨナラの左前打を放った。 自慢の投手陣も強打が売りの慶応打線と真っ向から勝負した。先発の仁田陽翔の投球が安定せず、二回途中で降板する誤算があったが、「早めの登板になるかもと思い、準備はしていた」と2番手の高橋煌稀がロングリリーフで好救援。3番手の湯田統真は九回に同点打を浴びたが、延長十回のタイブレークは無失点にしのいだ。慶応の森林貴彦監督は「ここ一番の相手の投手力を上回ることができなかった」と悔やんだ。 満員となった慶応のアルプス席から終始、大歓声がわき起こる中での試合になった。支えになったのは、東北勢初優勝を果たした昨夏の甲子園での経験だ。山田は「アウェーのようだった」と驚きながら、昨夏も決勝や準々決勝で球場の雰囲気が相手側に傾いたことを思い出した。山田が「自分たちが応援されているというポジティブな捉え方ができたのが勝ち切れた要因」と言えば、須江監督も「慶応さんは大応援団だけど、『それでもここはホームだ』ってみんなが本当に思えていた」と選手たちのたくましさをたたえた。 大事な初戦を接戦で制し、チームの勢いは増した。雪深い冬を越えて7カ月ぶりに戻ってきた甲子園で、春の頂点へと走り出した。【下河辺果歩】