BL東京、モウンガ&フリゼルに求めた「W杯後、10日以内に来日」 世界的スターの献身、若手の成長実った14季ぶりV…記者コラム
ラグビー・リーグワンの2023―24シーズン(26日閉幕)は、BL東京(旧東芝)が埼玉(旧パナソニック)を24―20で破ってリーグワン初制覇を果たした。前身のトップリーグ(TL)から14季ぶりVとなり、NO8リーチ・マイケル主将は「夢のよう」と、万感だった。 リーグワン初年度(22年)は4位、昨季5位のBL東京。今季の飛躍に、新加入したニュージーランド代表(NZ)のSOリッチー・モウンガと、FWシャノン・フリゼルが果たした貢献は大きい。モウンガは今季15試合に出場。4月に父が急逝し一時チームを離れた期間もあったが、シーズンを通してラン、パス、キック全てで世界屈指の技術を披露。シーズンMVPに輝いた。フリゼルは全17試合に出て、挙げたトライは10。攻守で献身し、今季のベスト15にも選出。副将のフッカー原田衛は決勝後、優勝の要因を問われると即答した。「リッチー・モウンガと、シャノン・フリゼルじゃないですか」 昨秋のW杯フランス大会を終え、各国の世界的名手が各チームに入団した今季のリーグワン。BL東京の薫田真広GMは、2人の入団時に「チームにレガシーを残して欲しい」と伝えたと言う。NZ協会の休暇制度を利用し、これまでも単年で来日するオールブラックスがいる中で「サバティカル(休暇制度)は考えていなかった」と薫田GM。モウンガ、フリゼルとは、複数年契約を結んだ。 そして契約書に入れた条件があった。「W杯終了後、10日以内に来日」。薫田GMは「いち早く、チームと共に成長して欲しかった。『個の能力を発揮してくれ』ではなく、我々のプランをどう理解して、順応してくれるか。そして結果として、数年後にレガシーを残せるかという事を話した」と説明した。 NZはW杯決勝で、南アフリカと死闘の末11―12で敗戦。BL東京陣営は疲労を考慮し、休養の余地を与えたが「本当に10日で来ようとした(薫田GM)」。当時の心境について、フリゼルはこう語った。「W杯中にリッチーと『W杯で優勝して、東芝に行ってリーグワンでも優勝できたら最高だよね』という話をして。でも決勝で負けてしまって、この負けを忘れるためにも早く東芝に行って優勝しなきゃ、という思いだった」。2人はW杯後、2週間以内には合流。薫田GMも「チームへの忠誠心、そこが人一倍強かった」と大きくうなずいた。 薫田氏は20年春にGM就任以降、トッド・ブラックアダー・ヘッドコーチらと共にチームの競争力向上にも着手。「リーグ戦の中で40人くらい起用してきた」と若手を積極的に起用し、決勝で先発したフランカー佐々木剛やSH杉山優平、WTB桑山淳生(いずれも20年度入団)はチームの主軸に成長。FW第1列の(1番から)木村星南(24)、原田衛(25)、小鍜治悠太(25)は、フッカー堀江翔太ら日本代表が顔をそろえる埼玉のフロントローとスクラムで一歩も引かなかった。「若い選手に経験させ、種をまき、成長した」。成果に対する評価を明確化させるため、選手のプロ化も促進。数人だったプロ選手は今季スタート時点で全50選手の半数以上となり「よりラグビーに特化し、競争率も高くなった」と薫田GMは語った。 若手の成長に加え、モウンガ、フリゼルのグラウンド内外の貢献。2人はチームのリーダー陣として、時に練習方法の改善をリーチ・マイケル主将やスタッフと話し合い、プレーオフ(PO)前になれば、モウンガがスーパーラグビー・パシフィックのクルセーダーズでの7連覇の経験を選手に伝えた。モウンガは言う。「東芝のポテンシャルを開花させ、最高のラグビーをできるにはどうしたらいいか、今年はそのいいバランスが見つけられたかなと。同じ状態では続けて勝てない。クルセーダーズで経験したが、チームとして更に進化して、固定概念から外れて創造性を持ってやっていく。一度勝って、満足するのか。それはチーム自身にかかっている」。東芝の経営難、成績不振など一時は低迷した名門。14シーズンぶりの栄冠は、黄金期再来を十分に予感させた。(大谷 翔太)
報知新聞社