面倒なルール、ややこしい人間関係など“あるある”が満載!?『ベイビーわるきゅーれ』の阪元裕吾監督が描く、共感必至(?)な殺し屋の世界
ついに公開された人気シリーズ最新作『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』。今回で映画3作目となる本シリーズといえば、殺し屋コンビ“ちさまひ”のバディ感あふれるやりとりやモラトリアムな日常、本格アクションが持ち味。そして、それらと並び、殺し屋というベールに包まれた裏社会の世界観も魅力的な要素の一つだ。メガホンをとる阪元裕吾監督は、これまで多くの殺し屋を題材とした作品でどこか現実味のある殺し屋ワールドを作り上げてきたので、いま一度振り返っていきたい。 【写真を見る】殺し屋のロマンあふれる世界も「ベイビーわるきゅーれ」シリーズの魅力!(『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』) ■『最強殺し屋伝説国岡』で築かれた阪元流殺し屋世界の基礎 阪元監督が『ベイビーわるきゅーれ』(21)で脚光を浴びる前の2019年に手掛けた『最強殺し屋伝説国岡』。本作は「『ベイビーわるきゅーれ』のシナリオに取り掛かっていた阪元監督が殺し屋ネットワーク“関西殺し屋協会”の存在を知り、取材を依頼したことから殺し屋に密着する」という体のフェイクドキュメンタリー。京都を舞台に腕利きの殺し屋、国岡(伊能昌幸)が殺しの仕事をこなしてく様子が、日常と共に映しだされる。 業界にはシフト制で働く協会勤めの“リーマン”、協会と依頼ごとに仕事をする“フリー”、そして協会に属さない“野良”の3種類の人間が存在する枠組みをはじめ、フリーの殺し屋は通常、死体処理やマネジメントを行うリーマンがマネージャーとして付くという通例や私怨での殺しはご法度といった掟など、絶妙にありそうな設定が細かく設けられており、映画への没入感を高めている。 また、人気のないゲーセンや暗い路地裏などでサクッと手間をかけずに次々と獲物を始末していく国岡の手練れ感もやけにリアル。そんな国岡はフリーの身だが人間関係が煩わしいためマネージャーを付けずに、依頼の受託からすべてを自分で行っており、自分が受けた仕事をほかの殺し屋に外注したり、時には突発的なクレーム処理に奔走することも…。どこまでも現実的な“お仕事”として映しだされている点もおもしろい。 殺し屋たちのしがらみだらけの人間模様も描かれており、プロ意識のない野良をフリーの国岡が嫌う一方で、金になる仕事ならなんでも請け負う協会の殺し屋を「プライドがない」と野良が罵ったり、殺し屋同士で仕事を取り合ったり、ベテランの先輩が若手を飲み会で説教したり…。結局どの仕事も一緒なのかも──そう思わされる説得力があった。 なお、続編『グリーンバレット 最強殺し屋伝説国岡[合宿編]』や、国岡に密着したYouTubeのチャンネルもあり、そちらではより世界観が深掘りされている。 ■世界観をより深く掘り下げた『ベイビーわるきゅーれ』 そんな『最強殺し屋伝説国岡』を経て作られた「ベイビーわるきゅーれ」シリーズは、国岡への“取材”の成果が生かされており、浮世離れしつつも同時にどこかありえそうな殺し屋業界がよりディープに描かれている。 1作目は関東殺し屋協会に所属する杉本ちさと(高石あかり)と深川まひろ(伊澤彩織)の“ちさまひ”コンビが高校卒業するにあたり、“殺し屋だけではなく、一般的な仕事にも就かないといけない”という協会の掟に四苦八苦する内容だ。 協会所属のリーマンであるマネージャーの須佐野(飛永翼)から、掟に従い自分たちの力で生活するように告げられたちさととまひろは同居生活をスタート。しかし、家賃の払い方すらわからない社会不適合者の2人はバイトを始めようにも面接に落ち続け、仕事もすぐにクビになる始末。やっとのことでメイド喫茶のバイトを始めるが、来店したヤクザの浜岡(本宮泰風)をちさとが射殺してしまい…。 本作にはマネージャーの須佐野のほかにも協会の人間として死体処理をはじめとする現場の後片付けをする“清掃員”の田坂さん(水石亜飛夢)が登場。なにかと仕事にうるさい田坂さんは、メイド喫茶の一件でも「ヤクザ同士の抗争に見せかけておきます」と仕事はしますけど感を出しながらもネチネチとちひろを説教し、誇張されつつも実際にいそうな人物像が笑いを誘う。 ちなみに仕事以外の殺しは会社の保険適用外、暴力団関係者と政府関係者は割増になるという理由から、ちさとも思わず声を上げるほどのお掃除代をしっかりと請求した。 ■非正規雇用など現実的な問題も描かれる『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』 続編となる『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』(23)には、“ちさまひ”のように殺し屋協会と正規の契約を結んだプロを目指すアマチュアの2人組が登場し、正規の座を賭けた殺し屋同士の争いが繰り広げられる。 協会の伝達ミスによって誤ったターゲットを殺したにもかかわらず報酬を支払ってもらえない現状に不満を抱える殺し屋バイトの神村ゆうり(丞威)と弟のまこと(濱田龍臣)は、ある日、仲介役の赤木(橋野純平)から「協会の連中にバレないように正規の殺し屋を始末すれば、その枠に入れる」という噂を耳にし、ちさととまひろの命をねらうことを決意。 一方、そんなピンチが訪れているとも知らず相変わらずの社会不適合ぶりを発揮するちさととまひろ。滞納金を支払うべく期日ギリギリに銀行を訪れた2人は、運悪く強盗に遭遇してしまい、早く支払いがしたいがために強盗を倒してしまうと、その件で協会から謹慎処分を食らい途方に暮れることに…。 非正規雇用問題という現実社会ともリンクするテーマが描かれている本作。権力者である協会のブラックな部分が浮き彫りになっており、窮地に追い込まれ、「ストライキを起こす!独立して企業する!」とヤケになるちさまひのアイデアをことごとく否定する殺し屋7箇条など、コミカルに描かれつつもゾッとしてしまうようなポイントも多い。 さらには協会の清掃員に提出する手書きの報告書について、ちさまひとコミカルに言い合いをしていた田坂さんが次の場面では殺し屋に襲われてしまう描写もあり、常に死と隣り合わせな殺し屋の世界に説得力を与えていた。 ちさととまひろが最強の“野良”の殺し屋、冬村かえで(池松壮亮)の粛清を命じられることになる最新作『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』。シリーズ初の出張や新たな協会関係者、入鹿みなみ(前田敦子)の存在など、業界のどんな新たな一面が飛びだすことになるのか?そのユニークな世界観を劇場で楽しんでほしい。 文/サンクレイオ翼 ※高石あかりの「高」は正しく「はしごだか」