【「べらぼう」放送開始】横浜流星主演「蔦重」は“大河の新時代”を開けるか?
大河ドラマが始まったのは1963(昭和38)年。東名高速道路が開通し、東京五輪が開かれる前年のことだったが、NHKは何を思ったか、第1回として井伊直弼を主人公にした「花の生涯」を放送した。「安政の大獄」で吉田松陰らを刑死させた張本人の大老で、赤穂浪士に討たれた吉良上野介と並んで庶民に嫌われている人物である。 それが災いしたか、年間平均視聴率は20.2%しか取れなかった。で、翌年は〝超有名大御所俳優〟長谷川一夫を大石内蔵助に起用し、「赤穂浪士」(原作・大佛次郎)を放送したら31.9%の高視聴率を挙げた。 次の年も庶民人気の高い豊臣秀吉の「太閤記」(原作・吉川英治)を取り上げ、主役に緒形拳(当時27歳)を抜擢して放送したところ、これまた大好評で視聴率31.2%を記録した。 それから5年後の1968(昭和43)年に日本は「明治百年」を迎え、日本武道館で記念式典が挙行された。記念すべきその年の大河ドラマは司馬遼太郎原作の「竜馬がゆく」で、今日の坂本龍馬人気はここから始まっている。龍馬を演じたのは、映画「旗本退屈男」シリーズで有名な〝東映の御大〟市川右太衛門(うたえもん)の息子・北大路欣也(当時23歳)だったが、視聴率は「太閤記」「赤穂浪士」の半分以下(14.5%)と振るわなかった。
大河に必要な「視聴者が感心する」描き方
横道にそれるが、司馬遼太郎原作の大河ドラマは以下の6作が放送されている。だが、司馬の知名度や著書の人気度に比して思ったほど視聴率は伸びず、6作中で最高視聴率の「翔ぶが如く」でさえ、その前年の「春日局」(橋田壽賀子脚本/33.1%)と比べると急落の感は否めない。 (1)1990(平成2)年 「翔ぶが如く」23.2% 主演:西田敏行/鹿賀丈史 *西郷、大久保の物語 (2)1973(昭和48)年 「国盗り物語」22.4% 主演: 平幹二朗 ※道三、信長、光秀ら乱世の物語 (3)1998(平成10)年 「徳川慶喜」21.1% 主演:本木雅弘 ※最後の将軍慶喜の物語 (4)2006(平成18)年 「功名が辻」20.9% 主演:仲間由紀恵/上川隆也 ※山内一豊と妻の物語 (5)1977(昭和52)年 「花神」19.0% 主演ː中村梅之助 ※軍神大村益次郎を描いた物語 (6)1968(昭和43)年 「竜馬がゆく」14.5% 主演:北大路欣也 ※激しく生きた坂本龍馬の物語 筆者が大河ドラマに望むのは、歴史的な事実関係を忠実に再現し、不明なところは想像で埋める手法だ。その点、2024年の「光る君へ」の主人公・紫式部の人生は、史料がほとんどないから、想像するしかない。「べらぼう」の蔦重についても同様だが、だからといって、ありえないと思うような言動や人物関係をもってストーリー展開をされると、見ている側はシラけて話についていけなくなり、離脱されてしまうだろう。 大河ドラマのスタッフが独創性や面白さを重視するのは大歓迎だが、「よくそこまで調べたな!さすがNHK」「史実関係がわかっていないところは、そういう推理をしたか!」と視聴者が感心するような描き方をしてほしいと願うのは、筆者だけではあるまい。