超絶ミシン技巧、恋バナ、そしてお金 ワン・ビン監督が撮った中国縫製工場の「青春」
中国の知られざる姿を、ドキュメンタリーに撮り続けるワン・ビン監督。「青春」で写し取ったのは、縫製工場で働く若者たちだ。1日中ミシンを操って超高速で衣服を縫い上げ、その合間に恋をしケンカし、前借りをせびり賃上げ交渉もする。2600時間もの映像素材から現代中国の青春を切り取って、「彼らの声を届けたい」と語るのだった。 【動画】つまらぬいさかい、恋の駆け引き、賃金交渉…彼らのみずみずしい日常 「青春」予告編
織里で働く労働者 真実の姿
「鉄西区」「三姉妹 雲南の子」「死霊魂」など、発展の陰になった中国の姿を記録してきた。「青春」で目を向けたのは、浙江省湖州市の織里。2万とも言われる子供服の縫製工場が建ち並び、地方から出てきた若者たちが、寮で集団生活しながら朝から晩まで服を縫う。ワン・ビン監督は織里を知って興味を持ち、働く若者たちの生活に入り込んだ。 「労働者に思い入れがあったわけではなかったけれど、今の中国はこの階層の人がたくさんいる。仕事を求める人々が、農村から長江デルタや北京などの大都市に出稼ぎに来る。建設業や小売業など職種は違っても、社会的地位や階級的性質は共通している」。知人のツテを頼りに織里に拠点を築き2014~15年に撮影に通った。コロナ禍で足踏みしたものの、ようやく完成させた。 小工場が集まる織里は、中央政府の目が届かず独自の経済体系を成り立たせているという。若者たちは、おしゃべりしながら驚異的な速さで服を縫い上げていく。映画のほとんどは、そうした作業の場面だ。「普通、ドキュメンタリー作家は単調な繰り返しを望まないだろう。観客が退屈するかもしれない。仕事、仕事、仕事という映像なので、編集もある意味困った。でも、ドキュメンタリーは記録。物語性を持たせた方が面白くなるのだろうが、完成した作品が、彼らの真実の生活と釣り合っていなければならなかった。余計な物語を作って映画にするのは違うと思う」 織里での生活は、午前8時から午前11時まで働いて、1時間昼食休憩を取って午後5時まで働く。それから夕食休憩1時間のあと、午後11時まで働いて、夜食を食べて寝る。土曜か日曜だけは午後5時で仕事が終わり、休みはその1晩だけ――。「縫う場面が続くのは、実際それ以外の時間がないから。彼らはほとんどの時間を仕事に費やしている。これでも映画ではかなり圧縮した」