居場所を失った「いじめっ子」を救った祖母の告白。映画『ホワイトバード はじまりのワンダー』の制作の裏側
そして今回紹介する『ホワイトバード はじまりのワンダー』は、そのオギーをいじめていたジュリアン(ブライス・カイザー)にスポットを当てた物語となる。 ニューヨークの新しい高校に通いはじめたジュリアンも今では、友人たちにも心を閉ざし、学校での居場所を失っていた。そんなある日、画家として世界的に成功している祖母サラ(ヘレン・ミレン)がパリから訪ねてくる。 孫が犯した過ちを知るサラは、ジュリアンの「あの経験で学んだのは人に深入りしないこと。意地悪もしないしやさしくもしない。ただ普通に接する」という冷めた言葉に胸を痛める。そこでサラは、それまで語ろうとしなかった少女時代について、孫に話して聞かせることを決意する。
■ナチスドイツ占領下で過ごした祖母の話 それはフランスがナチスドイツの占領下にあった1942年のことだった。フランスの片田舎に住んでいたサラ(アリエラ・グレイザー)は、両親の愛情を一身に受けて育った普通の少女だった。 だがある瞬間を境に、彼女の存在は加速度的に「よそ者」と見なされるようになる。普段利用していた店には「ユダヤ人お断り」の貼り紙が目立つようになり、ほのかに思いを寄せていたクラスメイトからはユダヤ人として侮辱されてしまう。自分自身は何も変わっていないのに――。サラは戸惑いを隠せなかった。
そんな中、ついにサラが通っていた学校でも、ユダヤ人の一斉検挙が行われるという報せが飛び込んでくる。ユダヤ人の生徒たちは、教師たちの手引きにより学校の裏から逃げだそうと試みるが、とあるクラスメイトの密告により生徒たちが次々と捕らえられてしまう。 そんな危機的な状況の中、ひとり身を隠していたサラを助けたのは、クラスメイトのジュリアン(オーランド・シュワート)だった。 幼い頃に患ったポリオの後遺症で足が不自由だったジュリアンは、クラスメイトから「トゥルトー」(カニ)と呼ばれ、からかわれていた。