芥川賞の上田さん 仮想通貨テーマ「小説は文字だけで世の中に影響」
平成最後となる第160回芥川賞が16日夕、発表され、上田岳弘(たかひろ)さん(39)の「ニムロッド」と、町屋良平さん(35)の「1R(いちらうんど)1分34秒」の2作品が選ばれた。16日夜、都内のホテルで行われた受賞会見で、上田氏は「良かったです」、町家氏は「すごく緊張していて、わけがわからない、というのが正直なところ」とそれぞれ喜びを語った。社会学者でテレビのコメンテーターとしても知られる古市憲寿(のりとし)さん(34)の「平成くん、さようなら」は受賞を逃した。 第160回芥川賞に上田・町屋さん、直木賞は真藤さん 3人が受賞会見
上田さんは1979(昭和54)年兵庫県生まれ。2013(平成25)年の「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞し、小説家としてデビューした。 「デビューから1作目、2作目は、自分がどれだけ速い球が投げられるのだろうか、という興味で書いていたが、作品を重ねるごとに、もっと広く読んでもらいたいと思いながら書くようになった」と執筆時の心構えの変化を語った。ただ「読みやすいからといって、深い部分を浅くするのは違う」とも。毎回試行錯誤を重ねながら、読みやすさと作品の深さの両立を図っているという。 芥川賞には過去、第152回に「惑星」、第154回に「異郷の友人」でノミネートされており、3度目での受賞となった。「候補にしてもらうだけで話題になる大切な賞。評価いただけてうれしい」と率直に喜ぶ。 受賞作には仮想通貨が題材として登場する。仮想通貨と小説の共通点について「それが存在するよ、と皆が言うことによって価値があるとされているのが仮想通貨。小説も本体は文字しかない。書いてあるだけなのに世の中に影響を与えるという点では似ている」。 大学卒業後、立ち上げに参画した法人向けソリューションメーカーでは、現在も役員を務める。小説家との両立について問われると「ある意味、すでにいっぱいいっぱい。今後どうなるか分からないが、バランスよくやっていこうと思っています」と笑顔で語った。