「Baby you」がTikTokでブレイク中の有華が1stフルアルバムに込めた思い「『年齢なんて関係ないよ。夢は叶うよ』というメッセージを私なら歌えると思うんです」
2023年1月にピュアでキュートなラブソング「Baby you」でメジャーデビューを果たした、シンガー・ソングライターの有華。TikTokでは、多くのインフルエンサーがノリの良いサウンドに乗せ恋するときめきを歌った同曲で踊る動画をアップしたことで拡散。SNS再生回数78億回を突破する大ヒットとなったばかりか、世界31カ国のApple Music J-POPランキングでトップ10に入るなど、世界中に広まった。 そんな彼女が、NHK 夜ドラ「おとなりに銀河」主題歌 の「HAPPY DATE」や、自身が出演するロート製薬「ロートリセ」CMソング「#Me」などを含むメジャー1stフルアルバム『messy bag』をリリース。散らかった(messy)カバン(bag)というユニークなタイトルには、気取らない有華の人柄や女性ならではの視点が詰まっていた。 【写真を見る】インタビュー中、よく笑い、アルバム『messy bag』への想いをたくさん語ってくれた。写真は通常盤ジャケット ■『この曲、今の私の気分にぴったり』って思ってもらえたらうれしいなって。そんな思いからつけたタイトルです 「タイトルは私の大好きな、人生に欠かせない大切な映画の一つ『アバウト・タイム 愛おしい時間について』に出てくるセリフからヒントをもらい、付けました。アルバムには恋愛を歌った曲が多いけれど、その中でもいろんな恋模様があるし、ほかにも誰かを応援する曲や、とても個人的な思い出を歌った曲もあります。全曲が揃ったときに、歌詞もサウンドもいろんなタイプの曲が入ったアルバムだなと感じました。その雑多な感じが私のカバン…、ごちゃごちゃといろんなものがぎゅっと詰まっている、それに似ている気がしたんですよね。 財布を取り出したいのに全然違うものが出てきちゃったりするけど(笑)、『あ、これが入ってたんだ、ラッキー』みたいに思うことも結構あるんですよね。そういう感覚って、“女子あるある”なんじゃないかなって思ったし、このアルバムをシャッフルで聴いたり、たまたまストリーミングで出逢ってくれた人が、『この曲、今の私の気分にぴったり』って思ってもらえたらうれしいなって。そんな思いからつけたタイトルです。 ちなみに、私はリップをそのままバッグに放り込んで、鏡も見ずに塗るような感じでしたが(苦笑)、友達と旅行をしたときに彼女のバッグの中がすごく整理整頓されていていたのに感動して。『私も彼女のようなレディになりたい!』と思い、少し整頓するようになりました。それが高じて、リップと鏡が収納できるグッズを自分で作っちゃいました」 アルバムの1曲目は、インディーズ時代にリリースされた「Partner」で、収録曲では最も古く作られた曲だという。最新の楽曲は10曲目の「Gentleman」で、有華が祖父を思って書いた心温まるミディアムバラードだ。 「インディーズのときに、祖母を思って『ミルクコーヒー』という曲を書いたのですが、今回はそのパートナーである祖父の歌を作りたいと思いました。祖父母には小さいころから本当にかわいがってもらい、かけっこやピアノなど、今回の曲に出てくるエピソードも私の思い出なんです。2人で通っていた喫茶店があり、祖母が先立ってからは祖父と私で行くようになり、コーヒーを飲みながらいろんな話をしました。そうした濃い時間を過ごしたからこそ、一緒に会話する内容を空気感も含めて書きたいなと思って書いた曲です。 実は、1年ほど前に一番だけ書いてあったんですが、続きが書けないまま祖父が亡くなって…。これまでは、大切な人がこの世からいなくなることをマイナスな印象でしかとらえていなかったけど、祖父が亡くなってからも自分の中で何も変わることなく生きているなと思うようになりました。だから、今までありがとうという曲ではなく、これからも一緒に生きていくよねっていうような歌詞にしたいと思いました。大切な曲だからこそ、じっくりと時間をかけて完成させたかったのでアルバムの最後に腰を据えて取り掛かりました。久しぶりに、自分の中から自然と湧き上がってきた曲でもあり、シンガー・ソングライターとしてそうしたものを大事にしたかったので、スタッフさんに『この曲は絶対に入れたい!』と言った曲でもあるし、すごく特別な1曲になりました」 ■有華の音楽人生の第2章が始まった感覚でした 「Gentleman」のように、作詞作曲を有華だけで完結させる楽曲もあれば、さまざまなクリエイターと共作した楽曲も多数含まれる。「Partner」をコラボしたシンガー・ソングライターのCHIHIROとは、2ndシングル「HAPPY DATE」や自らがCMに出演するアルバム収録曲「#Me」なども共作している。2人で実際に女子トークを繰り広げながら歌詞の構想を練ることもあるそうで、そこから生まれるリアルな歌詞が同性を惹きつけているようだ。 「アルバムに収録される曲で、一番古いのは2022年に作った『Partner』です。このときは、いろんな意味で新しいチャレンジがありました。その一つが、テーマや期限が決まっている中で曲を創り上げること。それまでの私は自由気ままに曲を書いていたので、大きな違いでしたし戸惑いもありました。 ただ、インディーズのときにいろんなミュージシャンと友達になり、先にデビューしていった人たちから、そうした話を聞いていて少し憧れもあったんです。もちろん、誰かの力を借りて曲を作る難しさも感じましたが、『やっとそういうことができるところにまで来たんだな』って思ったし、有華の音楽人生の第2章が始まった感覚でした。それまでは、コロナ禍も重なり、思うように活動できなくなって、『もう無理かもしれない』と心が折れかけていたんです。だからこそ、少しでも前に進める取り組みに挑戦したかったし、やってみると意外に自分に合ったやり方かもしれないなと思えたことも発見でした。 『HAPPY DATE』では、はじめにCHIHIROさんが出してくれたアイデアでは、歌の中のカップルがコンビニに行った帰り道にビールで乾杯するというものでした。でも、私自身はお酒を飲まないんです。テーマがとても身近なものだったし、私自身もすごく共感できる内容だったからこそ自分事として歌いたいと思い、“私はラテ 君はブラック 帰り道いつものコーヒーで乾杯”という歌詞に変えました。そんなふうに、おしゃべりを通して歌詞を作っていくことも新鮮でした。 このアルバム全体がハッピーだと思うんですが、特にCHIHIROさんと共作したものはそれが強いかも。『#Me』は、聴いてくださる方の自己肯定感が上がる曲になればいいなと思いながら書きました。作っている途中で、『少しハッピー過ぎるかも…』と悩んだのですが、音楽を通してハッピーに感じてもらえたり、ウキウキしてもらいたいと思って続けてきたので、このアルバムを聴いて少しでも気分が明るくなってもらえたら嬉しいです」 ■レコーディングぎりぎりまで何かふさわしい言葉かかんがえました 一方、「Baby you」や3rdシングル「Darling Darling」、本アルバムのリードシングル「恋ごころ」は、ロックバンド・andropのフロントマンである内澤崇仁と共作した。内澤といえば、これまでに柴咲コウや坂本真綾、Aimer、YOASOBIのikuraとして活動する幾田りらなど、数々の人気女性アーティストの楽曲を多数手がけている。経験豊富なサウンドプロデューサーのもと、新しい学びを得ながら有華の音楽性を押し広げることができたようだ。 「夏の曲を作ろうというところから始まった『Darling Darling』は、夏ソングを作った経験がなかった私にとって難関でした。内澤さんが作ってくださったメロディーやサウンドは弾むようなノリのよいもので、そのノリの良さに合わせて、所々で母音を合わせたりするような聴き心地を重視する歌詞でした。2番の歌詞を私が書いたのですが、今まで、サウンドやメロディーが持つリズムに合わせて歌詞を書いたり、母音を意識して言葉を選んだことがなかったのでかなり悩みました。いつものレコーディングでは、少なくとも1週間前に歌詞を完成させ、練習してから歌入れしますが、この曲は内澤さんと会話を重ねながらレコーディングのぎりぎりまで何がふさわしいか考えました。それだけに、記憶に残る1曲になりました。 『恋ごころ』は、内澤さんが歌ってくださったデモ音源がとても素敵だったので、どうすればこの曲を有華の曲として歌えるだろうかと考えさせられました。この曲はメインの楽器がアコースティックギターで、サウンドにいい意味で隙間があるシンプルなサウンドです。そうした曲だからこそ声によって感情を伝えられる、私らしさを歌で出せる曲だと思ったので、恋愛しているときのうれしい気持ちや、それと同じくらいの苦しさや悩みもたっぷり乗せて歌いました。そうした表現ができたことで、以前から応援してくださるファンの方からは、『懐かしい感じがする』とか『今までの有華っぽいね』というコメントもいただいて。そうしたところに気付いていただけたこともうれしかったです。 そうそう。この曲のMV撮影は、まだ残暑厳しい晴れの日だったので、カメラが止まるたびに手持ちの扇風機を3台くらい顔に当てながら、何とか乗り切りました(笑)。実は、『Baby you』の撮影では、監督さんや振付師の方、照明さんなどたくさんの方に囲まれて、めちゃめちゃ緊張して思うように動けなかったんです。でも、私のMVのためにたくさんの方が一生懸命に動いてくださっているのを見て、『恥ずかしいからできないなんて理由にならないな』『私がちゃんとやらなきゃどうする』って気持ちに変わったんです。それ以来、私なりにどう表現すればよりよい映像になるか考えるようになったし、顔も右のほうがいいか、左の方が“盛れる”かもと、細かなことも意識するようになりました。Instagramのライブでは寝間着とすっぴんで出てしまうこともあるので、かなりのギャップだと思います(笑)」 ■まさか自分の曲が、遠いどこかの国で聴いてもらえるなんて、1年前の私には想像すらできませんでした 「恋ごころ」は、古くから応援するファンのほか、海外のリスナーからも思いがけない反響が寄せられているという。デビュー曲「Baby you」のみならず、有華の楽曲は国籍を問わず世界に響く魅力を備えているのかもしれない。 「スタッフさんから、『恋ごころ』の再生回数が伸びていると教えてもらい、素直にうれしいなと思いました。中でも特に、サウジアラビアやエジプトの方がたくさん見てくださっていると聞いたときは、すごく不思議な気持ちになりました。『Baby you』は、タイトルや歌詞に英語が出てくるから、何となく意味も分かるのかなって思っていたんですが、『恋ごころ』はタイトルも歌詞もほぼ日本語です。ただ、私自身もよくK – POPなど、ほかの国の音楽を動画で見聞きしますが、特に韓国語とか英語は得意じゃないんですよね。それと同じように、歌声やメロディーやサウンド、その曲が持つ響きなどに興味を持ったり、共感して聴いていただけているのかなって思うようになりました。 まさか自分の曲が、遠いどこかの国で聴いてもらえるなんて、1年前の私には想像すらできませんでした。私は見かけによらず、小さなことが気になってマイナスに考えてしまうところがあり、友達からのLINEの返事がなかったりするだけで、勝手に妄想してくよくよしてしまうんです。でも、『Baby you』は心配症の私の予測をいい意味で遥かに裏切ってくれました。『未来は絶対こうなる』って自分で決めつけない方がいいなと思ったし、だからこそ、今の時間を大切に過ごしていきたいと思うようになりました。だって、インディーズでの10年近くの積み重ねがあったから、こうやってメジャーデビューができたと思うし、そんな私の歌だからたくさんの人に届いているのかなって思えるようになったから。有華というアーティストは、自分の中のハッピーを増幅させて皆さんに少しでもハッピーを届けられる存在でありたいと今回のアルバムを創りながら改めて思いました」 ■聴いていただく方の元気のもとになれるような、そんな曲をもっともっと作って歌い届けていけたらいいですね 11月中はインストアライブなどで全国を飛び回り、12月には母校の兵庫県・武庫川女子大学で凱旋学園祭ライブを行う予定だ。そして、2024年早々、1月には東京、2月は地元・大阪でのワンマンライブの開催も決まっている。ますます精力的に活動する有華は、この先、どんな歌を届けて行こうとしているのだろう。 「ここ最近は、いろんな恋愛の曲を中心に歌わせていただき、それが広く聴いていただけたことで夢だったメジャーデビューを叶えることができました。29歳の私が、これまでに経験してきたからこそ歌えるものがあるんじゃないかなって。そう思うようになったのは、昔からの友達が結婚や出産、キャリアなどで、ライフステージが変わるタイミングになり、そんな友人たちが私に夢を託してくれていると感じることが増えたからです。また、ファンの方の中にも、『6年前から応援しています。今は結婚して子供もいます』という方もいらっしゃいます。女性は特に、年齢でいろいろと考えさせられることがあるし、自分が置かれている環境とか、そういったものも変わることが多いのかなって。もちろん、すぐに変えることは難しいかもしれないけど、『別に年なんて関係ないよ。夢は叶うよ』というメッセージを、私なら歌えるんじゃないかなと。かつて、私自身が憧れたアーティストの方々のように、聴いてくださる一人ひとりの毎日に寄り添ったり、力を与えられる曲を作って、ライブで直接届けに行きたいです。 また、海外でも私の曲を聴いてくださる方がたくさんいると分かったので、海外でライブをしたいという新しい目標ができました。たとえば、タイ・バンコクのストリートで『Baby you』を歌ったときに、道行く人が立ち止まったり、一緒に踊ってくれたら最高だなって妄想しちゃいます(笑)。ほかにも、アーティストさんの楽曲にフィーチャリングで参加したり、参加していただいたりといった新しいチャレンジにも興味があります。音楽的な幅を広げながら、聴いていただく方の元気のもとになれるような、そんな曲をもっともっと作って歌い届けていけたらいいですね」 ■取材・文=橘川有子