（写真：静岡新聞社）

　8月に初めて発表された南海トラフ地震臨時情報により防災対策を見直した人も多いのでは。南海トラフ巨大地震では1週間分の食料や飲料水の備蓄が推奨されているが、静岡県の調査で保管場所が確保できないことを理由に1週間分以上の備蓄がない県民が多かった。限りある家の中にスペースを用意するにはどうしたらいいのだろうか。備蓄と片付けの両方に詳しい防災士は「不要品を捨て、備蓄場所の確保を」と話す。 　「片付けと防災は深くつながっている」。こう指摘するのは、片付けの助言を行う住空間収納プランナーで防災士の波多野友美さん（50）＝浜松市浜名区＝。家の片付けは備蓄場所の確保だけでなく、地震発生時の安全にもつながるとして「身の回りの整理整頓は防災の第一歩」と強調する。 　県が昨年度実施した「南海トラフ地震に関する県民意識調査」によると、食料や飲料水を7日分以上備蓄している人は、4～5人に1人の割合。7日分以上の量を備蓄していない理由は「保管する場所がない」が半数以上を占めた。 　波多野さんによると、家庭から出る平均の不要物は10畳間が埋まる量に相当する。裏を返せば上手に整理整頓することで、それだけ備蓄のスペースが確保できるということだ。不要品を手放して、家族の命を守る防災用品への入れ替えを推奨する。 　では、家のどこから手をつけたらいいだろうか。初心者が取りかかりやすい場所は台所、洗面所、玄関。いずれの場所も用途が明確な物しか置かない傾向にある。賞味期限が過ぎている食品、においが好みではなかった洗剤など捨てる理由が明確になりやすい。 　他方、洋服や雑誌、写真といった多様な物があるリビングやクローゼットから取りかかると、時間がかかり挫折してしまうケースが多い。取り組みやすい場所からこつを覚え、片付けに慣れることが大切という。 　整理整頓により、落ちてくると危ない物を安全な位置に移動させることもできる。避難経路をふさがない家具の配置なども減災に向けて重要になる。 　波多野さん宅では、食器棚などをL字形金具で壁と固定し、ガラス扉にはガラス飛散防止フィルムを貼っている。家電の多くは粘着シートで固定し、滑りにくくさせる工夫が見られた。 　冷蔵庫は大きな揺れで外れる可能性がある突っ張り棒で固定するよりも、冷蔵庫の背面にある取っ手にベルトを通して、壁と固定する方が効果的という。波多野さんは「全てを対策するのは大変。避難経路の近くにあるものから優先的に取り組んでほしい」と話す。 ■食料ストック続けるこつは…　月に1回、試食しつつ補充 　県は賞味期限がある食料品などは普段から少し多めに買い、古いものから消費して買い足す「ローリングストック」と呼ばれる備蓄方法を推奨する。だが、種類によって異なる賞味期限の管理は大変で継続するのは難しい。波多野さんがおすすめするのは、家族で月に1回、必要な量を試食して備えるやり方だ。 　波多野さんに初心者でも取り組みやすい1週間分の食料の備蓄方法を聞いた。一つのケースに家族1日分の食料を準備し、そのケースを7日分用意する。①から⑦まで番号をつけて家族で毎月1ケースずつ1日かけて食べてみる。 　注意したいのが、用意する食料の賞味期限は7カ月以上のものを選ぶこと。7カ月かけて七つのケースを順番に消費していくので賞味期限が7カ月以内の食料を入れなければ、期限を気にせずに消費ができる。 　量やバリエーションを増やしたいなどの家族の意見を取り入れながら、食べ終わったケースに毎月、食料を補充していく。波多野さんは「家族の意識が高まるのがメリット」と語る。 　備蓄のおすすめはレトルトパウチ食品。カップ麺はお湯が必要なのと、残り汁の処理に手間がかかる。缶詰は食後、水不足などで十分に洗えないと悪臭の原因にもなるので注意が必要という。