ポスト聖子の野望で歌手の道へ… “ド演歌育ち”米良美一が「もののけ姫」を歌うまで
ひばりで鍛えたカウンターテナー
今でこそ、ファルセット(裏声)を駆使した歌手として知られるが、自身は洗足学園音楽大音楽学部声楽専攻に入るまで、「カウンターテナー(女性の声域を歌う男性歌手)」の言葉すら知らなかったという。大学1年生の時、先輩に「米良の声、カウンターテナーにいいんじゃない?」といわれたのがきっかけだ。 「今だから言えますけど、高校生の頃からスナックに出入りして、美空ひばりさんを歌ってたんですね。だから最初にカウンターテナーと聞いたときには、お店の“カウンター” を思い浮かべました。カウンターテナーというのは、女声でいうとアルトのふくよかで温かみのある声なんです。クラシックを習ったのに比べると俗っぽいですけど、ひばりさんがちょうどアルトぐらいの高さなので、僕のカウンターテナーはひばりさんの曲で鍛えられたんです」 何の予備知識もないまま、カウンターテナーの道を進むことになった。大学を首席で卒業すると、自主制作盤の発売を経て、1996年にキングレコードから日本歌曲を集めたアルバム「母の唄」を発売し、メジャーデビューを果たした。この4曲目に収められた「城ヶ島の雨」を耳にしたのが宮崎駿監督だった。 後に宮崎監督自身から聞いた話では、スタジオジブリへ向かう車中で聴いていたラジオから流れてきたという。感想は“男か女か、子どもか大人か、日本語だがどこの国の人が歌っているかも分からない”というもの。キングレコードを通じて米良の元に話が来たが、宮崎監督の名前を「宮崎県」と混同し、地元の焼酎のCM曲の依頼でも来たのかな、と勘違いをしていたという。 「話を聞いた際はちょうどオランダ留学に出たばかりで。しばらくしてから"宮崎違い“だったことに気付きました。だってあの世界のジブリから連絡が来るとは思いませんでしたから。私の怨念じみた歌声に、『悲しみと怒りにひそむ……』というようなものを感じ取られたのかもしれません(笑)」 マネージャーと二人、スタジオジブリに向かうと、宮崎監督と鈴木敏夫プロデューサーが小さな部屋で待っていた。「もののけ姫」の短いイメージビデオを見せられた後、「この作品は書けないかもしれないと思っていたが、あなたの歌声でインスピレーションが沸き、できそうだ。ぜひ主題歌を歌ってほしい」と告げられた。後に多くの人の耳に届く「もののけ姫」の主題歌の最初の一歩だった。 *** 自身を広く世に知らしめた「もののけ姫」との出会いを果たした米良。第2回【「もののけ姫」で時の人に…20cmヒール靴で隠した低身長 米良美一がアイデンティティ告白で得た“自由”】では、その名曲を歌いきるのに苦労したエピソードなどについて語っている。
デイリー新潮編集部
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