社説:外交と安全保障 「力の対抗」進まない道こそ
東アジアの不安定な安全保障環境の中で、平和憲法を掲げる日本がどのように地域の緊張緩和と安定を図れるか。多国間協調を柱とした外交力を高める姿勢が欠かせない。 軍拡と海洋進出を活発化させる中国や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮の動向を背景に、政府はこの10年間で戦後の安保政策を大きく変容させた。 2014年に安倍晋三政権が集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、翌年に安保関連3法が成立。岸田文雄政権は「防衛力の抜本的強化」を掲げ、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有や防衛予算「倍増」を打ち出した。 発足70年を迎えた自衛隊と在日米軍の運用一体化も近年加速する。米軍の艦艇や戦闘機を自衛隊が防護する活動が増え、両者の指揮系統の統合も進む。 石破茂首相も所信表明で、中国やロシアの領空侵犯や北朝鮮の弾道ミサイル発射を挙げ、「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」として防衛政策の継承を明言した。 だが、国民的な議論もないまま、憲法9条に基づく「専守防衛」を空洞化させようとする姿勢には疑問がぬぐえない。米国の戦争に日本が巻き込まれないかという懸念も強まる。 安全保障を巡る石破氏の「信念」も不安を募らせる。自民党総裁選や首相就任会見では、全面的な集団的自衛権行使につながる「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」構想を唱え、米国との核共有を具体的に検討する必要があるとの持論を展開した。党内外の批判を受けて封印したのは当然だろう。 力に偏った抑止は、軍拡競争と不測の緊張事態につながりかねない。その落とし穴にはまることなく、対話を通じた信頼醸成こそ肝要である。 大国間の対立で、国際秩序を保つ国連の機能不全が著しい。多国間協調の重要性を確認しつつ、実効ある仕組みを構築し、運用する外交努力が不可欠だ。各党の衆院選公約を見る限り、そうした言及は十分でない。 国連で採択された核兵器禁止条約への対応も問われている。 今年のノーベル平和賞に、核廃絶を訴えてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が決まった。各地で紛争が続き、核使用の脅威が高まる今日、核被害の非人道性を共有することが重要な抑止力になるとのメッセージは重い。 日本は米国の「核の傘」の下にいるとして、同条約の批准を拒み、オブザーバー参加も見送ってきた。唯一の戦争被爆国として条約に参加し、核廃絶の先頭に立つ責務がある。 「厳しい安保環境」を理由とした力の対抗を当然視しては、平和外交の選択肢は狭まる。身の丈に合った防衛力と外交力を組み合わせた「現実的な路線」を探ってもらいたい。