中身はチーズだけ 農協系スーパーの「中華まん」が売れ続ける理由
「家で口にくわえて食べてみたら、一口目でチーズに届かない。もうちょっとチーズの量を増やせないだろうか」 ハピまん製造の様子 十勝管内音更町にあるJA木野の子会社が運営するスーパー「ハピオ」の中華まんじゅう「ハピまん」の商品開発会議で、「よし、これでいこう」と最終決定をした夜、製造担当者に1本の電話があった。 これまで会議で何十個と試作品を食べてきたが、半分に割ったり、切り分けたりして確認していたため、皮の厚さは盲点だった。担当者は、生地に具を詰める包餡(ほうあん)機の限界となる1・3倍にチーズの量を増やし、「増量分のコストはハピオさんに反映させず、うちの工場で持ちます」と伝えた。 電話をかけたのは、開発に携わった帯広物産協会の木戸善範事務局長(55)。年間20万個を売り上げる大ヒット商品は、異業種の連携によって誕生した。
別商品のはずだった
2019年、木野地区ではスーパーダイイチの増床リニューアルやマックスバリュ出店が計画されていた。メーカー品の価格競争ではかなわない多店舗展開の他社との差別化に向け、地元食材を使ったオリジナル商品を強化しようと「HAPIO FOODS」(ハピオフーズ)のブランド名を打ち出した。 レトルトカレーに続く2作目として考えたのが、当時話題となっていた伸びるチーズが特徴的な韓国のおやつ「チーズハットク」。相談を受けた木戸事務局長らは、いくつか既製品を取り寄せて食べたが、あまり魅力を感じない。代わりに「チーズ入りの中華まんじゅう」を提案した。 チーズまんは、十勝の乳製品や小麦を味わってもらおうと、同協会と東洋食肉販売(埼玉県)の十勝事業所で共同開発して、八千代牧場まつりで子どもに配布したことがあった。商品化はしておらず、地産地消というイメージは農協系スーパーであるハピオから発売するのにぴったりだった。
伸びる比率を追究
「十勝の取れたての農産物を消費地に送るだけではなく、加工、冷凍すれば賞味期限を長く、備蓄もでき、食品ロスが減らせる。冷凍食品市場が広がる中で十勝の加工品はどのようにリークすることができるだろうか」。木戸事務局長は10年ほど前、冷凍食品をテーマにしたテレビ取材を受けるなど、冷凍加工の必要性を強く意識していた。 ただ冷凍食品市場は大手メーカーが席巻し、地域を代表する商品を見渡しても数少ない。3者は、ローカル発で冷凍のチーズまんを売り出そうと、販売に向けた開発を始めた。 こだわったのはチーズの味と伸び。道産から海外産までさまざまなチーズを、ブレンドの比率を変えて何作も試作し、デンマーク産や十勝産の4種類に決定。農協系スーパーである以上、すべて地元産にこだわりたかったが、当初は断念した。チーズとのバランスを取るため、生地は甘みを1%単位で微調整した。