【肉そば】冬の空気のなかですする、温かいつゆとたっぷりの豚肉が心身に沁みる:パリッコ『今週のハマりメシ』第117回
ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。 それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。 そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。 * * * 珍しく遅めの時間に仕事の打ち合わせが終わり、西武有楽町線の新桜台駅あたりから、我が家の沿線である西武池袋線の江古田駅に向かって歩いていた。そういうシチュエーションであるから、腹も減っているし、当然一杯やりたい。どこかに良さそうな店はないかな? と、あまり訪れる機会のない街の散策を楽しんでいると、気になる店を発見。 まるでお手本のような、街に古くからある大衆酒場な雰囲気がたまらない。ここ数年、子育てやコロナのこともあって、こういう、本気で前情報のない店にふらりとひとりで入ることが減っていた。いいタイミングだ。焼鳥や軽いつまみで1、2杯やって、きっとおにぎりとかそのくらいの軽食はあるだろうから、それで締めて帰ろう。ちょうどいいちょうどいい。 店内は、テーブル席がひとつにカウンター。奥に座敷席もあるようだけど、電気が落とされていて様子ははっきりと見えない。カウンター内には、茶系の作務衣(さむえ)っぽい服を着たご主人がひとり。かなり年季が入っていそうな貫禄がある。先客はなし。 通常メニュー、ボードメニュー、合わせてもかなりシンプルな構成で、あてにしていたごはんものはないようだ。それにしても、「チューハイ」が350円、すべり出しに良さそうな「白菜漬」が200円とは、驚きの価格。シャキシャキと甘酸っぱい白菜漬けは盛りもよく、しゅわりとしたチューハイの相棒として抜群だ。 せっかくだから焼鳥も頼んでみよう。 ・焼鳥 塩・たれ(辛口)2本400円、3本550円 ・つくね(軟骨入り)3本550円 以上。かなりシンプルなメニュー構成になっている。焼鳥のたれ2本を注文。 炭火ではなく、「遠赤」と書かれたよく手入れされた専用の焼き台で、ていねいに焼かれる焼鳥。ご主人は、注文など必要最低限以上の会話をされるタイプではなく、入店してからずっと、店内には静かにTVの音だけが響いている。 しばらくして焼鳥が届き、なによりその大きさに驚いた。ひと串が、平均的な焼鳥店のものの3~4倍はあるんじゃないだろうか? 焼きたてをはふっとかじってみると、ほんのりとみたらしっぽくもあるような甘く香ばしいたれ、そして、ふわりとした肉の柔らかさにまた驚かされた。 日本中のいたるところにひっそりと、しかしどっしりと、こういう名酒場があるんだろうなと思うと、心強い。 焼鳥をつまみにおかわりしたチューハイを飲み干し、ふたたび街に出る。あわよくば、温かい立ち食いそばの一杯でもシメに食べて帰れたら最高なんだけど、江古田に立ち食いそば屋ってあったっけ? 地元石神井公園駅前の「富士そば」は、駅前再開発の影響で最近閉店してしまったしなぁ......。などと考えながら、やがて江古田駅前エリアにたどり着き、周囲を一周してみると、なんとそれらしき店を発見!
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