消えぬ喪失感(11月17日)
県民に、こうも愛された人は記憶にない。突然の死が連鎖するかのように思い出を呼び起こし、本紙「ひろば」欄に追悼の投稿が相次いだ。言うに言われぬ惜別の念とともに▼郡山市出身の西田敏行さんが旅立って、きょう17日で1カ月になる。思いを寄せた読者の筆は熱い。「復興に尽力した」「被災者と一緒に涙を流してくれた」との感謝から、「名役者、名演技」と、その力量への賛辞まで内容は幅広い。素顔を紹介する逸話もあった▼映画「釣りバカ日誌」では、何よりも釣りを優先する建設会社の営業マン・浜崎伝助を演じた。「お荷物社員」だが、会社を救う場面がある。他社に工事の仕事を奪われそうになり、発注元に乗り込む。相手の担当者は何と、自身の釣りの弟子。師匠たってのお願いを無視はできない。「趣味は身を助ける」といったところか▼誰にも必ず取り柄があり、それぞれが大切な役割を抱えて生きている―。古里の生んだ名優は貴い真実を教え、背中を押してくれた。人の心を引きつけた所以[ゆえん]だろう。白河市の男性が寄せた慟哭のような投稿が胸に染みる。「体の一部を失ったような気持ち」。消えぬ喪失感に、存在の重さを改めて思う。<2024・11・17>