【ふくしま創生臨時支局・只見町】独自製法で新たな酒 ねっか 海外販路失い…ピンチをチャンスに
酒類を製造販売している福島県只見町の合同会社ねっかは、地元産米のみを原料に使った新たな混成酒(リキュール)の「HOBO(ホボ)」を誕生させた。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に伴い、自社の日本酒の海外販路を失ったピンチをチャンスに変えて開発した新商品。初回製造分は発売後、すぐに売り切れるほどの人気で、追加の仕込みに入る。従業員らは「只見のコメの魅力を酒造りを通して伝えていきたい」と意気込んでいる。 ねっかは、2023(令和5)年8月の処理水海洋放出後、窮地に陥った。地域活性化の一助にしようと、主力の米焼酎とは別に海外向け日本酒造りに取り組んでいたが、輸出先だった香港で福島県の商品の買い控えが起き、出荷がストップしたからだ。一部商品は出荷できた。ただ、既に製造した約500本は倉庫で保管を余儀なくされた。 海外輸出用限定で日本酒が製造できる免許を国内で初めて取得。2021年11月、香港への輸出にこぎ着けた。現地の商社とは2023年度に5千本を出荷する契約を締結していた。
代表社員の脇坂斉弘さん(50)は科学的な安全性を商社担当者に繰り返し説明したが、不調に終わった。「福島県産という理由だけで売れないのか」。もどかしさが募った。 現状を打開しようと思いついたのが、日本国内では免許がなく販売できない日本酒をベースにした独自製法の酒だった。もろみを搾った日本酒に、もろみを蒸留した米焼酎を醸造用アルコールとして添加。さらに甘酒を加える新たな醸造製法を試行錯誤の末、生み出した。 同社の米焼酎「ねっか」由来の華やかな香りを放ち、口に含むと甘酒由来の甘さを感じながらもしっかりとした日本酒特有の切れのある味に仕上がった。添加する甘酒の甘さや酸味のバランス、基盤となる日本酒の精米歩合を調整することで味わいに変化が生まれる。脇坂さんは「これまでになかったような味わいになった」と手応えを感じた。 リキュールとして今年6月、「ホボ スタンダード」(720ミリリットル入り税込み2750円)と奥会津限定の「ホボ ローカル」(720ミリリットル入り税込み1650円)の二つの商品を発売した。アルコール度数はどちらも15度。今後、仕込みをして来年1月から再び販売する予定。
従業員は只見町の特産品に成長させ、美しい地域の田園風景を守りたいと願う。脇坂さんは「国内外に誇れる只見町のコメでお酒を造り続け、地域を守り、未来へつなげる」。困難を経験し、酒造りの新たな可能性を見いだした。