「ポスト岸田」の必須条件は「脱デフレ」 求められる「空白の30年」と決別、日本経済再生へかじ取りできるリーダー
【お金は知っている】 通常国会が閉会するや、自民党内では秋の党総裁選挙に向け、「岸田降ろし」が蠢動(しゅんどう)しているという。岸田文雄政権に対する世論支持率の低迷が背景にあるのだろうが、その根本的な原因は岸田首相が日本経済再生の明確な道を示せなかったことにある。 【一覧】主な「ポスト岸田」候補 景気の現状を実質国内総生産(GDP)成長率の前期比伸び率で見ると、今年1~3月期2次速報値は0・5%減と、昨年7~9月期以来、再度下降した。検査不正の発覚で自動車の減産が響いた面もあるが、家計消費は昨年4~6月期以降4四半期連続で前期比マイナスになっている。 そんな中、岸田政権が6月21日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」では本文冒頭で、「デフレから完全に脱却し、成長型の経済を実現させる千載一遇の歴史的チャンスを迎えている」と威勢が良い。 デフレとは、物価が下がり続けるとの予想が広がっている状態を指す。足下の物価は輸入コストの上昇で上がっている現在でも、需要が萎縮している場合、企業はコスト上昇分を製品価格に転嫁できない。収益が圧迫されるので賃上げを渋る。その結果、家計の所得は物価上昇分に追いつかないので消費を減らすしかない。すると、モノやサービスの供給能力に比べて、需要が小さくなる。これが、日本がいまだに抜けられない慢性デフレであり、消費者物価はプラスでも需要から見ればデフレなのだ。 グラフは内閣府が算出したGDPの需給ギャップである。供給に対する需要の差の割合を示し、マイナスの場合はデフレ・ギャップ、プラスだとインフレ・ギャップと呼ぶ。日本は昨年秋以降、デフレ・ギャップが大きくなっている。にもかかわらず、岸田政権が骨太方針で脱デフレの実現可能性を強調したのは、先の春闘の賃上げ率が33年ぶりの高い水準だったことが根拠になる。 しかし、総務省の家計調査4月分では物価上昇率を加味した勤労者世帯の実質可処分所得は前年を下回る。懐具合の悪さを実感する消費者が岸田政権に不信感を持つわけである。 岸田首相の最大の誤りは、「脱デフレ」と言いながら、国民一般の間での、社会保険料引き上げや消費税増税の懸念を払拭できていないことにある。「骨太」では一定程度の財政出動を認めながらも、基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の2025年度黒字化目標を復活させた。PB黒字化こそは財務省が増税と緊縮財政に政権を誘導するためのガイドラインであり、デフレ圧力を招くのに、岸田首相は気づかない。
「ポスト岸田」にだれがふさわしいか。「日本経済空白の30年」に決別し、日本再生へとしっかりとかじ取りできるリーダーこそが求められる。だが、党内の多数勢力はPB黒字化賛同論者である。脱デフレを果たせる総裁を選ばない限り、自民党は世論の支持を取り戻せないとの危機感を共有できるかどうかが問われる。 (産経新聞特別記者 田村秀男)