2023年にこの世を去った沖縄戦の語り部たち 生涯をかけ次世代に遺した言葉
78年前の沖縄戦体験の継承に先頭に立って取り組んだ語り部たちが今年、相次いで他界した。中山きくさん(享年94)、本村つるさん(同97)、平良啓子さん(同88)。夢いっぱいの学生生活、家族や友人を奪われたつらい記憶を生涯をかけて発信した。故人たちの足跡、遺(のこ)した言葉を改めて胸に刻む。(デジタル編集部・新垣綾子、社会部・當銘悠) 【写真】沖縄のタレント津波信一さんが語る「きく伯母さん」の思い ■あらゆる場に姿が 中山きくさん 戦時中、県立第二高等女学校の生徒でつくる白梅学徒隊として看護動員された中山きくさん。 おぞましい記憶を巡り重い口を開いたのは戦後半世紀がたってからだ。夫の転勤のため3年を過ごした広島、長崎で被爆体験に触れ、「沖縄戦も語り継がないと、友達の死がなかったことにされてしまう」と危機感を抱いたのが転機になった。 白梅同窓会の会長や、9校の元女子学徒らでつくる「青春を語る会」の中心的役割を担った。沖縄戦の歴史歪曲(わいきょく)につながる教科書検定意見の撤回や、名護市辺野古への新基地建設反対を訴える県民大会にも登壇。90歳間近になってからも、あらゆる場にその姿はあった。 「思っているだけで平和は来ない、行動しなさい」。口癖のように繰り返した。 県内外で講演し、さまざまな立場の人たちと交流。きくさんの影響を受け、国際的な会合で平和スピーチをした若者や、ジャーナリストになった人もいる。 白梅の体験継承に取り組む「若梅会」のいのうえちずさん(55)は「砂漠に種をまく気の遠くなるようなきくさんの活動は、確実に全国各地で芽吹き、花を咲かせている」とうなずいた。 ■約束果たせず悔い 本村つるさん 県立第一高等女学校と沖縄師範学校女子部の生徒で構成するひめゆり学徒の一人だった本村つるさん。周囲は「学級委員長のような存在だった」と評する。 1989年のひめゆり平和祈念資料館(糸満市)立ち上げの中心となり、館長やひめゆり同窓会理事長などの要職を歴任。他人の意見にも丁寧に耳を傾けるユーモアあふれるまとめ役だった。 一方、人前での講話はほとんど引き受けなかった。戦時中は学校の最上級生。けがをして動けない後輩を「後で迎えに来るから」とその場に残し、激戦の中で「約束」を果たせなかったことを終生悔いた。「何を話しても言い訳になるから」と顔をゆがめて語った。 ある日、海外からの来館者に「資料館は100年続きますか」と問われると「次へ次へとつなぐ人たちがいるから続きますよ」と言い切った。信頼を寄せる非体験世代の職員たちが、2021年4月に同館2度目のリニューアルを果たした際は、車いすから身を乗り出して展示に見入り、喜んだ。「これなら伝わる」 同館学芸員の前泊克美さん(46)は「資料館を残していくことは目標であり、使命。100年続けるには私たちの次の世代の育成も必須。先生方を安心させられるよう力を尽くしたい」と意気込んだ。 ■千回の講演こなす 平良啓子さん 平良啓子さんは、米潜水艦に撃沈された疎開船「対馬丸」の生き残り。戦後、小学校教師の傍らいち早く語り部として活動した。大宜味村憲法九条を守る会の代表も務め、改憲の動きや東村高江のヘリパッド移設、辺野古新基地建設にも反対の声を上げた。 こなした講演の数は約千回にもなる。特に慰霊の日が近い5~6月は、手帳にびっしりと講演のスケジュールが書き込まれていた。 「平和な世の中をつくるために勉強してください」。啓子さんは大学で講演するたびに、学生たちにこう語りかけたという。 授業で対馬丸事件を伝えている沖縄国際大学非常勤講師の吉川由紀さん(53)は「大学まで来て勉強できるのは幸せなこと。戦争に向かっていった当時の教育を振り返り、平和な社会をつくるために勉強してほしいとのメッセージだった」と受け止めている。 「40年以上も語り続けてきた啓子先生の姿を見て、続けることが大事だと思った」と吉川さん。バトンを受け取り、対馬丸を語り継ぐ決意を新たにしている。 ■「ついにこの時が」 ひめゆり平和祈念資料館の館長で、男子も含めた全学徒隊の特別展などに関わった普天間朝佳さん(64)は「体験者の減少、コロナ禍のブランク。継承活動はますます厳しくなっていたが、今年は大きな存在が相次いで亡くなり『ついにこの時が』と痛感する転換点だった」と思う。 「地獄のような戦争を二度と繰り返さない。語り部の方々の共通した願いを改めて心に留め、活動を広げていきたい」と誓った。 ◇ ◇ 中山さん、本村さん、平良さんに、元なごらん学徒の上原米子さん(享年96)、梯梧同窓会の上原はつ子さん(同94)を加えた全5回のウェブオリジナルの連載「語り部たちの『遺言』~戦なき世を託して」はこちら(https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1278824)から。
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