ザックJの9月は新旧崖っ縁マッチ
吉田麻也の崖っ縁
ザックジャパンにおける経験値こそ豊田よりはるかに多いものの、DF吉田麻也(サウサンプトン)も崖っ縁に立たされている一人といっても決して過言ではない。 ウルグアイ戦では1点目と3点目につながる致命的なミスを犯し、後半11分にDF伊野波雅彦(ジュビロ磐田)との交代を命じられた。今年に入って行われた13試合で25失点。特にコンフェデレーションズカップとウルグアイ戦の計4試合で13失点と、「世界」を相手にした試合における守備網のほころびが、否が応でも目立つ。この日の会見でも、守備の再建に対する質問が多かったが、ザッケローニ監督は最終ラインだけの責任に帰結させることはなかった。 「1人の選手、ひとつのパート、ここではディフェンスラインの責任にするのは安易なことだと私は考える。他の選手との絡みを考慮することも大事だ。就任した当初は決定力不足を指摘され、それを修正することから着手した。何とか点を取れるようになってきたので、これからは別の改善点に着手したい。私はDFラインのメンバーを心から信頼している。世界中のDFの中から好きな選手を(日本代表に)選んでもいいと言われても、ほぼ変わらないメンバーとなるだろう」 逆に懲罰交代させた吉田を擁護するような発言までした。 「ヨーロッパのシーズンがオフか、始まったばかりの時期と(コンフェデ杯とウルグアイ戦は)見事に重なっている。ウルグアイ戦では、海外組のコンディションを把握できないまま試合となってしまった。代表監督としてはチーム全体の守備を整備するが、DFラインだけではなく、MFやFWといかに連動していくかが大事になってくる」 センターバックの新顔を招集しなかった理由も、そういうことなのだろう。 しかし、ヨーロッパ各国のシーズンが開幕し、9月に入った段階では、もうコンディションうんぬんは理由にできない。9月の2連戦は国際Aマッチデーでも「オフィシャルマッチデー」となり、各国の協会は代表選手をキックオフの96時間前から拘束できる。今回招集された選手は、9月2日から大阪府内でキャンプに入る。ウルグアイ戦と異なり、10日のガーナ戦まで準備期間は十二分にある。 コンフェデ杯やウルグアイ戦ではボールを失った直後に前線の選手が守備の「一の矢」となりえず、遠藤保仁(ガンバ大阪)と長谷部誠(ヴォルフスブルク)のダブルボランチも「フィルター」の役目を果たせなかった。相手攻撃陣の猛威に直接さらされる状況は、最終ラインにとってたまらない。 実際、ザッケローニ監督は招集した23人へこう注文をつけている。 「代表に呼ばれる選手はグローバルや選手、つまり攻守両面でチームに貢献できないといけない」 まずは本田や中央にシフトしての攻撃に固執するあまりに、何度もボールを失った香川ら攻撃陣の意識改革から着手するだろう。アジア勢相手にはできていた、前線からの連動した守備を復元できても失点の連鎖が止まらないようならば……その時には、吉田に代わって新たな選手が試されることになるはずだ。 ウルグアイ戦で途中出場した伊野波か。あるいは、東アジアカップで及第点のプレーを演じ、出場機会こそ訪れなかったものの、ウルグアイ戦にも招集されたDF森重真人(FC東京)か。 いずれにしても、今回の守備に関する指揮官のコメントは吉田への「最後通牒」と表裏一体と言っていい。 今回の2連戦には、ウルグアイ戦に続いて前田、ハーフナーのFW陣、中村憲剛(川崎フロンターレ)や細貝萌(ヘルタ・ベルリン)のMF陣も招集されていない。戦術理解度の高さをザッケローニ監督から絶賛され、ボランチとセンターバックの両方をこなせる高橋も外れた。 文字通りの日本代表の新旧選手の崖っ縁マッチが、ゴングが鳴らされた感がある。 来年6月のW杯本大会へ向けて、ザッケローニ監督は今後の青写真をこう語った。 「まず結果を求められた今までと異なり、これからはチョイスの要素が入ってくる、チームのバランスを大きくいじることはないが、新戦力には期待している。代表チームの大きな部分は年内に固まってくるはずだが、最終的にメンバーを固めるのは来年5月以降になる。最後の最後まで、すべての日本人選手に代表チームへの扉が開かれている」 ウルグアイ戦後に開幕したプレミアリーグで2試合続けてベンチ入りメンバーから外れていた吉田は、27日に行われたバーンズリーとのイングランド・リーグカップで先発フル出場。5対1の勝利に貢献し、遅まきながら今シーズンの第一歩を踏み出している。 (文責・藤江直人/論スポ)