「イスラム教では自殺を禁止しているのになぜ自爆攻撃をするのか?」「なぜイスラエルの民間人を殺すのか?」2001年当時のハマスの精神的指導者アフマド・ヤシーンが語った答えは?
ダイナマイトを渡され「うれしかった」
ジェニン難民キャンプで、イスラム聖戦とつながりがあると思われた20代前半の男に自ら近づき、町の喫茶店で「殉教者になりたい」と告げた。男は「3日後に必要なものを用意する」と約束した。数日後、男はある空き家で黒のバッグを見せた。 中にダイナマイトのようなものが見えた。重さは15キロ。中に手を入れてスイッチを押す指示を受けた。 この時は「うれしかった。これで自分の思いを遂げられる」と思ったという。以前からイスラム過激派に関わっていたわけではないが、モスクの勉強会には通っていた。「殉教者には神のもとで素晴らしい生活が約束されている。両親も天国に招くことができる」と信じていた。 決行の日の朝6時、バッグを担いでジェニンを出た。乗り合いタクシーで境界の村まで行った。歩いてイスラエル側の町に入った。たまたま通りかかったアラブ人の車に乗せてもらい、バス停で降りた。普段は人が多いが、その時バス停にいたのは兵士2人だけだった。「もっと人が来るまで待とう」と思った。しかし大きなバッグを持っている彼に、兵士が不審を抱いて連絡をとったのだろう。 ほどなく軍の四輪駆車が来て、いきなり撃たれた。「気付いたら病院だった」と言う。私も当時のニュースで、遠隔操作できる小型のクレーンで少年が引っ張られていく映像を見た。それがジダンだった。彼はイスラエルの病院で治療を受け、イスラエルの医師や看護の対応に謝していると語った。「罪のない民間人を殺そうと思ったのは間違いだった。双方が話し合うべきなのだ」と心境を語った。 少年の話を1時間以上聞いた。病室には監視がいたが、少年は自由に語った。しかし自爆テロに走った動機はなかなかつかめなかった。過激派から特別の訓練を受けたり、洗脳されたりしたわけではない。 宗教的な信念や政治的主張を語るわけでもない。生活が追いつめられた様子もない。私は少年に「自爆しようとしたあなたは他の人々と何が違うのか」と聞いた。少年はしばらく考えて、「みんなには忍耐力がある。僕は耐えることができなかった」と答えた。
---------- 川上泰徳(かわかみ やすのり) 1956年生まれ。中東ジャーナリスト。元朝日新聞記者・編集委員。カイロ、エルサレム、バグダッドに特派員として駐在し、イラク戦争や「アラブの春」を取材。中東報道で2002年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。著書に、『イラク零年』『シャティーラの記憶パレスチナ難民キャンプの70年』『中東の現場を歩く』『「イスラム国」はテロの元凶ではない』などがある。 ----------
川上泰徳
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