『ラストマイル』は岡田将生の最重要作に 観客の“視線”を導くフィクサーとしての役割
岡田将生が体現する核心へと近づく“心の動き”
けれどもそれは、映画の前半までの話。当然ながら物語が進むにつれ、犯人の人物像が浮かび上がり、なぜこのような事件が起きてしまったのか、その真相に私たちは近づいていく。フラットに存在する“梨本孔=岡田将生”とは、私たち観客の視線を導く役どころ、いわば案内役なのだ。ここで事件の真相を明かすことはもちろん控えるが、核心へと近づく彼の心の動きは、やがて私たちの心の動きとシンクロする。これに関しては作劇や演出に拠るところも当然ながら大きいが、岡田が自身の役どころをどのように立ち上げるのかによって、この印象は、いやもっというと“体験”は、まったく違うものになっていただろう。 つまり物語の後半では、梨本が現状維持というものを手放し、エレナをはじめとする者たちと共闘していくさまが描かれる。それまで冷静だった彼が狼狽え、懸命に事件を止めようとする姿を、岡田は体現していくわけだ。 物流はこの社会の命。梨本が立っているのは、この社会の中枢であり縮図だともいえる。現代社会が抱える諸問題を描いた本作は、極めて真剣なエンタメ作品だといえるだろう。そしてこのことを考えると、『ラストマイル』は俳優・岡田将生にとって重要な作品だという事実が見えてくる。 近年の彼は、特異な役どころばかりを演じ、そしてモノにしてきた。2024年の春に公開された主演作『ゴールド・ボーイ』で演じたサイコキラー役は、その最たるものではないだろうか。『ドライブ・マイ・カー』(2021年)や『CUBE 一度入ったら、最後』(2021年)で演じた性格に難のある若者役も、『ゆとりですがなにか インターナショナル』(2023年)で演じたどうにも情けない主人公も、テイストは違えど近しい系譜にある。 この流れを俯瞰すると『ラストマイル』の梨本孔は、フィクション作品の登場人物として、ある種の正統派だと思えるのだ。演じるキャラクターの個性を武器とせずに物語を牽引する演技者・岡田将生の力に唸る。この夏の彼はとくにすごいのだ。
折田侑駿