美空ひばりが「陽氣な渡り鳥」で演じた自身の生き写しのような少女役
日本歌謡界のレジェンドであり、死去から30年以上が経った今もなお燦然と輝く美空ひばり。数々のヒット曲を飛ばし、歌謡界の女王として君臨したこの偉大な歌姫は、生涯で162本の映画にも出演するなど、銀幕女優の一面も有していた。そんな美空が1952年に主演を務め、家族向け娯楽作として大ヒットを記録したのが「陽氣な渡り鳥」(気は正しくは旧字体)だ。 【写真を見る】一座で歌唱するみどり(美空ひばり) 伏見晁の原作を、戦後GHQの検閲を通った第1作「そよかぜ」を手がけた佐々木康監督によって映画化した本作。物語は、1人の少女が人気役者となり、消息不明となっていた父親と再会するまでを描いている。 父は出征してから消息不明、母も亡くして孤児となった岡本みどりはある港町で船大工として働く金之助夫婦の養子に迎えられる。しかし、まもなく夫婦の間に実子が生まれたために、家では邪魔者扱いされていた。 そんな時、町へやってきた女剣劇一座の女奇術師・勝玉斎晴江に親切にされたみどり。その時のことが忘れられず、家を飛び出すとそのまま一座の巡業について回ることに。やがて一座は、得意の歌で人気者となったみどりを一枚看板に東京へと進出していく。 役者として幸せな暮らしを送る一方で、金のなる木となったみどりのもとには、金之助夫婦が現れたり、父親を名乗る偽者が近寄ってくる。汚い大人たちの姿に「もうお父さんなんかいらない」と悲しみにくれるみどり。そんな時、小さな頃から世話をしてくれた保育園の杉野が本物の父親を連れて一座を訪ねてくる...。 ■歌姫役で見せた名女優としての片鱗 今回演じる主人公のみどりは名前もさることながら、生まれつき歌がうまいという設定は、まるで美空自身の生き写しのような役どころ。劇中に収められる主題歌「陽氣な渡り鳥」をはじめとした数多くの歌唱シーンはもちろん大きな見どころだ。 本作公開時はまだ15歳のあどけない少女だが、見た目からは想像もつかない大人びた美声は、今聞いても惚れ惚れする。その歌声はまさに天から与えられたものと言うほかない。 一方で、演技に目を向ければ、まるで美空のドキュメンタリー作品を見ているのかと錯覚するほど、みどりというキャラクターのリアルさが異様なほどに伝わってくる。これもひとえに、養父母のもとで忍び耐える姿や、舞台の上で明るく振る舞い観客を沸かせる姿など、場面によって変化するみどりの心境だけではなく、その立ち位置までを己のものにしているからだろう。 偉大な歌姫だけではなく、名女優として確かな才能を放つ美空ひばり。あらためて、その唯一無二のスター性には感嘆の声を上げざるをえない。 文=安藤康之
HOMINIS