もともと接戦体質。U-23日本代表、僅差勝ちを可能にする材料とは?【西部の目/U-23アジアカップ】
U-23日本代表は25日、AFC U-23アジアカップカタール2024・準々決勝で開催国のU-23カタール代表と対戦。相手に退場者が出ながら一時逆転されるなど苦しんだが、延長戦の末、最終スコア4-2で勝利し、パリ五輪出場権獲得に向け一歩前進した。“接戦”はこのチームの特徴と言えるかもしれない。(文:西部謙司) 【動画】U-23日本代表対U-23カタール代表 ハイライト
●電光石火の先制ゴール。その後は… 2分で山田楓喜の先制ゴール。関根大輝の相手陣内深くへのロングパスはカットされたがU-23カタール代表のDFの緩すぎるバックパスを山田が奪い、そのままカットインして左足を振り抜いた。 ファーポストへのシュートコースを切っていたDFの左側をボールが通っているので、GKにはボールが見えにくかったはずだ。ファーもニアも狙える状態から、的確な判断でニアサイドへ強烈なシュートをねじ込んだ。 開始早々に先制したU-23日本代表は強度で圧倒してペースを握る。しかし、24分にU-23カタール代表はエースのアフメド・アルラウィが見事なヘディングシュートを決めて同点に。左サイドの攻め込みから右へサイドチェンジ、斜めのハイクロスに体をねじってのパワーのあるヘッドだった。 これでU-23カタール代表は落ち着いたのか、持ち前のパスワークと個人技で盛り返していく。A代表もそうだが、適宜にトップが下りてくるなどビルドアップが整理されている。 失点後のU-23日本代表はしばらく耐える流れになったが、38分には松木玖生が左サイドでDFを引きずるようなドリブルから渾身のクロス。DFの背中をとった細谷真大はフリーだったが、足を出すのがわずかに遅れてシュートは枠外に飛んだ。 そして40分に試合を左右する出来事が起こった。 ●相手の退場で変わった流れ U-23カタール代表のGKユセフ・アブドゥラーが退場になったのだ。松木のパスに飛び出したGKアブドゥラーはヘディングでクリアしたのだが、その際に足裏で細谷の腹を蹴ってしまっていた。OFR(オン・フィールド・レビュー)の末、レッドカードが示された。 これにより、3-4-2-1システムの右シャドーで攻撃の中心になっていたハリド・アリを交代させなければなくなったのもU-23カタール代表にとっては痛手だった。ここからはU-23日本代表が一方的に攻め込む展開になる。 10人になったU-23カタール代表は5-4-0で、いわゆる「バスを置く」守り方になった。 もともとローブロックのときは5-4-1なので、トップの「1」がいないだけで5-4のブロック自体に変化はない。戦い方がはっきりしたぶん、U-23日本代表はむしろ攻めにくくなった感があった。 イエローカードをもらっていた松木に代わって後半から藤尾翔太が登場。細谷との2トップになる。しかし、相手が10人のわりには早くボールを失っていて、しかも48分にはFKから逆転ゴールを許してしまった。この時点で、相手の5-4-0への対応ができていないように見えた。 5-4のブロックは変わらないので、そう簡単に穴が空くわけではない。そのかわり、前線に人がいないからクリアボールは全部拾える。CB2人を余らせる必要がなかった。 まもなくCB高井幸大を藤田譲瑠チマと並べる形で前に出し、この2人がフリーマン的にボールの経由点となる。これでU-23カタール代表がブロックの前面でボールを奪える可能性が激減し、あとはほぼ攻め続けるだけ。それでもなかなか決定機を作れなかったが、65分にCKから木村誠二がヘディングシュートを決めてようやく振り出しに戻せた。 ●僅差勝ちできる材料とは 藤尾がクロスボールからの決定機を2つ決め損ねた後、佐藤恵允に代わって平河悠を投入。さらにアディショナルタイムに山田を荒木遼太郎へ交代。この交代策で攻撃の的が絞れて来る。 荒木は先発の山田と違って右サイドには張らない。中央でいつものトップ下としてプレーした。右サイドはSB関根が高い位置をとる。左は平河がキレのあるドリブルで脅威を与える。左右からクロスボールが入りやすくなり、中央の人数も増えた。 勝ち越しの3点目は延長11分だった。藤田から荒木の足下へ縦パスが入り、2人のDFの間にポジションをとっていた細谷へ、荒木から間髪入れずパスが通る。細谷はワンタッチで抜け出してGKの足の間を抜くシュートを決めた。 すでに疲労困憊だったU-23カタール代表に守備に追われながら攻撃に転じる余力はなく、延長後半から細谷に代わっていた内野航太郎がダメ押しの4点目をゲット。これもCKからで、クリアボールを川﨑颯太がシュートし、DFに当たってこぼれたところを内野航がすかさず押し込んだものだった。 4ゴールのうち2つはCKから。接戦を制するための決め手となりがちなセットプレーは今回のチームの武器だ。山田、山本理仁と精度の高いスピードボールを蹴れる左利きが2人いるのは強みである。 あと1勝でパリ五輪行きが決まる。10人の相手に一時は逆転を許し、思わぬ接戦になってしまったのは反省点だが、もともと接戦体質ではあると思う。その中で選手が代わっても崩れない組織、落ちない強度、そして計算できる得点源のセットプレーと、過密日程下の接戦を制するための準備ができている。接戦なので確実に勝てるとはかぎらないが、僅差勝ちできる材料が揃っているのは長所である。 (文:西部謙司)
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