『リズと青い鳥』が描く“才能の毒” 京都アニメーションの技量が詰まった残酷な美しさ
希美の思いを語る「言葉」
「みぞれのオーボエが好き」 圧倒的な才能の差を見せられ、理科室にこもり、みぞれに発見される希美。笑い声が好き、話し方が好き、髪が好き……希美の全てが好きだと伝えるみぞれに、希美はたった一言、オーボエが好きだと返した。 みぞれのオーボエ以外の要素は好きでないのか、それとも言葉が出なかったのか。正確な心情は分からないが、このとき希美は音楽のことを考えていたのだろう。 なんとなくではあるが、一時期音大を目指していた希美。自分にとって大きな存在である「フルート」にみぞれがふれない悲しみを、もしかしたら怒りを、制作陣は希美に言葉で表現させた。 みぞれには音楽で語らせた京アニだったが、希美に音楽は与えられなかったのだ。 やはりここでも、京アニはみぞれと希美の才能の差を見せつけている。希美のもとから飛び立とうとしたみぞれには音楽で、みぞれから距離を置こうとした希美には言葉でそれぞれの思いを語らせることによって。 しかも、みぞれがオーボエで才能を披露した場面の後には、もう演奏のシーンは出てこない。希美の思いを表すのは、「ソロ、完璧に支えるから」「待ってて」などの言葉と、図書館でセンター試験の参考書を開くといった行動のみ。希美の描写に、彼女が奏でる音楽は使われなかった。
ラストシーンではついに学校の外へ
フルートを構えるシーンでも、フルートを置くシーンでも、希美のプラスチック製のような腕時計が頻繁に目に入る。 おそらくは安価な腕時計をつけた少女に、自分が招いた友人の才能を、自分の才能の及ばなさをありありと感じさせた『リズと青い鳥』。 物語のほとんどが校内で進むなか、ラストでは、違う道を進むと決めた2人が学校の外に出て、「何を食べに行くか」相談しながら下校する。鳥かごから出る道を、リズが青い鳥に案内するかのように。 みぞれのほうを振り返る希美と、驚くみぞれの顔。希美が何と言ったのか、どんな表情をしていたのかはわからない。 だが、青い鳥のことを「リズに会いたくなったらまた会いにくればいい」と話した希美なら、羽ばたいた青い鳥にも帰る場所を用意するはずだ。
三山てらこ