想定外を知っておくのが「危険予知」の目的|長山先生の「危険予知」よもやま話 第22回
JAF Mate誌の「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生からお聞きした、本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介するこのコーナー。今回は自転車や歩行者など相手の心理を読むことの重要性から、子供のうちから事故の危険性を教えることの大切さまで、孫とのエピソードを交えて話してくれました。 【図説で確認】どこが問題かわかりますか?(全4枚)
想定外を知っておくのが「危険予知」の目的
編集部:今回は歩行者や自転車の多い交差点を左折しようとしている状況です。歩行者や自転車が目の前を通過するのを待って発進したところ、左前方から来た自転車が目の前を横断してくるというものです。このような状況では、写真に写っていない左側から来る歩行者や自転車を気にする人が多いように思いますが……。 長山先生:そうですね。おっしゃるとおり、写真には写っていませんが、左側から歩行者や自転車が来ているかもしれないので、それを無視することはできません。危険予知上必要なことで、そこに意識がいくことはとても重要です。 編集部:でも、今回の結果は違いました。一見、何も問題がなさそうな左前方から来た自転車が目の前を横切りました。この結果を予測できなかった人は多かったのではないでしょうか? 長山先生:確かに結果を見て意外に感じた方は多いかもしれませんが、このようなケースは少なくありません。自転車がまっすぐ交差点を直進する場合は、交差点の手前で信号待ちすることになるので問題はありませんが、交差道路側に横断しようとしていた場合、自転車の運転者は信号が青のうちに渡ってしまおうと思うからです。 編集部:確かにそうですね。一見、この自転車の動きはかなりの無茶ぶりですが、私も免許を持っていない中学生や高校生のときは、自転車でこのような走り方をしていたような気がします。 長山先生:そうです。自転車に乗らない人や車ばかり乗っている人には、このような自転車の無謀な走り方は想像できないかもしれませんが、そんな考えもしていなかったことが起こるのを知っていただくことが「危険予知―事故回避トレーニング」の目的のひとつで、意味のあることなのです。「こんなこともあるのだな。これからは左折時に自転車が前方から走ってきている場合に、その動きを注意して見ることにしよう」と受け止めていただければ幸いです。 編集部:問題の場面では、左から右に渡っている人がほとんどでしたが、一人だけ右から歩いてくる男性がいました。この人が渡るのを待たなくてもよかったのでしょうか? 長山先生:おっしゃるとおり、道路交通法の第38条で「横断歩道等における歩行者等の優先」が定められており、横断歩道や自転車横断帯を通過する際、横断していたり、横断しようとしている歩行者等があるときは、横断歩道等の直前で一時停止し、その通行を妨げないようにしなければなりません。ただ、まだこの男性は横断歩道に差し掛かっていないので、このタイミングで左折しても問題はないでしょう。 編集部:そうなのですね。でも、もたもたしていると、この男性が横断歩道に差し掛かるので、急いで曲がろうとしてしまいそうですね。 長山先生:そのとおりで、曲がれるタイミングではありますが、急ぐといろいろと見落とすことが多くなり危険です。特に先ほど話が出た「左側からの歩行者や自転車の見落とし」には注意が必要です。