『ボトムズ』主役メカ スコープドッグに頭部レンズが3つあるワケ 「後付設定」も?
スコープドッグの意外な制作秘話
1983年に放送されてから約40年、今でも熱烈なファンを持つ『装甲騎兵ボトムズ』。 【画像】ホントだ、レンズの形や色が違う! これが「スコープドッグの頭部レンズ」です(4枚) 遠い宇宙、星間国家の間で戦争が続くなか、「アーマードトルーパー」、通称「AT(えーてぃー)」と呼ばれる人型兵器を駆って過酷な戦場をくぐり抜けつつ、ひとりの人間としての自分を取り戻してゆく青年兵を描いたTVアニメーションです。 このATは、それまでは理屈抜きのロボットが主流だったTVアニメーションとは一線を画した、あの『機動戦士ガンダム』のモビルスーツからさらに「リアルな兵器」としての緻密な設定やデザインを確立し、ミリタリーファンやプラモデルファンたちに高く評価された人型メカです。 ATを代表するのが、通称「スコープドッグ」です。頭部に3つのレンズを持つデザインは印象的で、それまでの人型ロボットの概念をくつがえしました。 三角形の回転台にしつらえられた、この3つ並んだレンズは、監督の高橋良輔さんも語っておられますが、顕微鏡や、かつてTV局などで使われていたカメラの回転式のレンズをリスペクトしてデザインされています。 ところで、ファンのなかでは、まず設定を作ってからメカをデザインしたと思っておいでの方も多いと耳にします。しかし、当時のTVアニメーションでなによりも重視されたのは商品としてのカッコ良さです。まず画面上での「見栄え」が第一で、このスコープドッグもデザイン先行で、設定先行で発注されたものではありません。 そして、出来上がってきたデザインに対し、作品の世界観に併せて、後から理屈=設定を付けてゆくのが、当時のサンライズでは「設定制作」というスタッフだったのです。 さて、スコープドッグの頭部レンズは台ごと左右にスライド、回転しますが、この3つのレンズはそれぞれ役目が違います。 ・メインレンズ……「標準ズームレンズ」。一番大きくて目立つレンズで、遠近ともに捉える基本のレンズです。 ・小型レンズ……「超広角レンズ」。とても高性能のマンションドアの覗きレンズとでもいえばいいでしょうか。広い範囲をとらえることができます。 ・赤いレンズ……「精密照準レンズ」。ゆがみを修正し遠距離のターゲットを確実に狙うために特化したレンズです。色が赤いのは、作劇上のこだわりで性能とは無関係です。また、ほとんど色味のない頭部にひとつ目立つポイントを入れたかったという意図も働いています。 シリーズ内では、この設定を各話の担当演出などが基本として活かすことで、『ボトムズ』のAT戦のシーンは作られていきました。 しかし、作劇上の都合で、こうした設定も徐々にアップデートされていくものです。例えば、広角レンズであれば、本来なら標準ズームレンズの影が映るはずなのですが、途中からはコンピューター補正されている画面に切り替えることができるという設定に変更されます。 また、赤い「精密照準レンズ」を光らせて信号を送るという演出も現れます。これもまた、演出側のアイデアで、担当の設定制作曰く「なりゆきです」とのこと。 「『ボトムズ』なら、さぞやきっちりした設定で作ってあるのだろう」と思われがちです。しかし、作り手側にとって一番大切なのは、いかに面白い画面やカッコイイ映像を作れるかなのです。それに併せて設定が進化してゆくことは、一生懸命、理屈を考え続けねばならない当時の設定制作にとっても、大変ではありますが、やりがいのある仕事だったのです。 【著者プロフィール】 風間洋(河原よしえ) 1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
風間洋(河原よしえ)