<リベンジの春・’23センバツ>背中を一押し/下 クラークの食支え 野球部監督の妻で寮母・佐々木千明さん /北海道
◇選手は「家族」 社会に通用する大人に 球児たちの体は、ひと夏、ひと冬を越えるたびにどんどんと大きくなる。みな、体重が増えることを競い合っている。もちろん、たゆまぬ練習による筋力アップのたまものだろう。けれど、ほかに欠かせない要素がある。「メシ」だ。ただ食べれば大きくなるわけでなく、栄養管理や生活指導も選手が食事を口にするときに重要になる。センバツに出場するクラーク記念国際の野球部員は全員が寮暮らしだ。3食が提供される食堂をのぞいた。 センバツ出場決定後の平日の午後2時過ぎ。一人の女性が寮の食堂に姿を見せた。エプロンに帽子。「選手は家族だからね。家庭から大事な息子を預かっている分、社会に通用する立派な大人に成長させなきゃいけないんだよ」と話しながらテキパキと調理の準備を始めた。この「食堂のお母さん」は野球部の佐々木啓司監督(67)の妻であり、全寮制を支える寮母も務めている千明さん(66)だ。 寮で暮らす野球部員は3学年がそろうと40人ほど。そのすべての3食をまかなう。晩ご飯のときに炊く米は、4升3合。1升は10合だから、自宅の炊飯器で炊く分量と比べたら、どれくらい多いのかが分かるはずだ。もちろん、おかずの準備も欠かせない。栄養バランスを考えながら、献立を考案。朝昼は手伝いがあるが、夜は一人で調理する。一番人気というカレーは、豚肉4・5キロ、牛肉2・0キロ、ルー2・0キロ、玉ねぎ25個、にんじん10本前後、じゃがいも20個以上。大きな鍋に入ったカレーが瞬く間になくなる。 「食べ残しは禁止」というルールがある。たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル。バランスを考えたメニューを平らげてもらったら、強い体をつくることができるという自負があるからだ。「家族に食べてもらうような感覚。おいしいと思ってくれたらそれで満足だよ」と笑う。1年のころに小さかった「子ども」が3年になるころに大きな体を揺らす姿を見ると、うれしくなる。 千明さんはチームの遠征があれば同行し、買い出しや洗濯、薬の管理などもする。あいさつや礼儀、言葉遣い、食堂の当番のときの動きなど……選手たちの日常生活に問題があれば徹底的に指導するという。「子どもたちには『口やかましい寮母だな』と思われているかもね」と笑い飛ばす。 当の部員たちはというと――。寮長を務める宇都尊陽(2年)は「千明さんのご指導があったからこそ、人間的に大きく成長できた。ほかの選手たちもみんな感謝しています」と言う。そして、「甲子園で必ず勝利して恩返しをしたい」と誓った。 千明さんがやりがいを感じるのは「実家」からの言葉を聞いた瞬間だ。「選手たちが帰省してまた寮に戻ってきたとき、『親からしっかりとしたねと言われた』と話してくれると、よかったと思うよ」と明かす。「私は『野球選手』を育てられない。でも、子どもたちを『社会に出て通用する人間』に育ててあげたいと思っているんだ」と目を細める。 夫と二人三脚で歩んできた。この春、「家族」の活躍に期待する。【金将来】