『相棒』右京の“宿敵”南井がまさかの復活 小説『シャーロック・ホームズ』との酷似
事件が起これば、紆余曲折はあれど解決するのが刑事ドラマで、犯人の予想だけでなく、そのトリックや関係者の心理を推理、想像するのが楽しむポイント。そう考えていたのだが、『相棒 season22』(テレビ朝日系)第12話では、それさえも思い込みであることを思い知らされる予想外の展開が待っていた。 【写真】『相棒』容疑者を捕まえる川原和久×寺脇康文 都内のネズミがいるような地下道で、頭部を負傷した男性の遺体が発見された。警察は、何者かと揉み合って階段から転落したと見て捜査を始める。被害者は、フランチャイズ弁当店の店長。残されていた手帳には、本社の社員から受けていたと思われるパワハラの実態が生々しく書き記されていた。捜査一課は、その店を担当していた内田(前原滉)という本社の社員から話を聞くが、実際に指導していたのはチーフ社員だとかわされてしまう。一方、手帳に他とは違う筆跡で「ワイアット」と書かれていたことや、被害者が磨かれたようにキレイな硬貨ばかりを所持していたことが気になった右京(水谷豊)は、亀山(寺脇康文)と共に独自捜査に乗り出す。被害者の妻や近隣住民に聞き込みを行うと、今回の事件とは別に1年前に近所でホームレス殺害事件が起こり、今も未解決であることが判明。ホームレス同士が金で揉め、周囲に小銭が散らばっていたというのだ。右京は、被害者が硬貨を使ってホームレスを殺害、その証拠を消し去るためにピカピカにし、使っていたのではないかと推理した。 殺害されたホームレスは、元は資産家で家を失ってもビジネス本を愛読していたという。その本は、苦労せずに金持ちになれると言われているクロガネモチの葉が栞に使われており、それが挟まれていたページには「ワイアット」と同じ筆跡で「非凡人」の文字が。しかも逆さから相手に見えるように書いたようで、文字は歪んでいた。これは2つの事件に関連する「第三者」がいたことを意味している。クロガネモチの葉を頼りに殺害されたホームレスの住んでいた家を特定した右京たちだが、家の所有者の女性はおそらくホームレスによって殺害されており、ホームレスはその家の息子になりすましていたことを知る。 同じ頃、最初の被害者にパワハラをしていた疑いのあったチーフ社員が会社を辞め、行方不明になっているとの知らせが入る。右京と亀山がその社員の机を調べていると、パワハラの証拠となる書類の中に、違う筆跡で「食物連鎖」と記されたメモを発見する。その文字は、それまでに見つけていた「ワイアット」「非凡人」と同じものだった。右京たちが内田に話を聞くと、パワハラについては認めたが、メモについては知らないという。だが、右京は内田のある行動に注目し、彼と最初の被害者に接点があるのではないかと疑っていた。 事件と事件が、「被害者が別の事件の加害者となる」という形で次々に繋がり、全てを操っている黒幕の存在が疑われた。「これから後半は右京の華麗な推理編が始まる!」と胸を躍らせていたが、なんとここからさらに事件が起こっていくのだ。 「ワイアット」「非凡人」「食物連鎖」という3つのキーワードから真相を探り当てるのは、知識が豊富で、各国の歴史にも文学をはじめとした文化・芸術にも精通している右京にしかできない芸当だ。淡々と点と点を繋いでいく右京の“推理ショー”は特命係のいつもの部屋で開かれたのだった。そして亀山が事件を整理しようと事件現場に印をつけ始めると、その形は逆五芒星に。その瞬間、その背後に右京は南井(伊武雅刀)の存在を感じ、震え始める。 南井とは、スコットランドヤードに所属していた警部で、右京のロンドン研修時代の相棒だった男。右京に並ぶ鋭敏な頭脳に加え人の心を開かせる才能を持ち、右京ですら「犯罪者さえも南井の前では自供を始める」と評するほどの優秀な刑事だった。彼は、右京の相棒が4代目の亘(反町隆史)だった時に、何度か来日。右京とともに事件を解決するが、いつも犯人は自殺し、幕を下ろしていた。その度に右京は南井の関与を疑っていたのだが、最後には南井が老化に伴う認知障害を患っており、感情の抑制が出来なくなったり、記憶や見当識にも障害を抱えていたことが判明。自ら事件を起こしてはその事実を忘れて自ら捜査をするといった行為を繰り返していたことがわかる。右京は悲しそうな顔を浮かべながら南井を逮捕し、病院に収容するが、南井はすぐにそこから抜け出し、近くにあった滝へ身を投げてしまう。近くに血痕があり、身を投げれば到底助かりそうもない高さであることから遺体は見つからなかったが「死亡」と判断された。 実は、この描写はシャーロック・ホームズとその最大の敵・モリアーティが最後に対決し、ホームズが転落したライヘンバッハの滝に酷似している。小説『シャーロック・ホームズ』シリーズでは、この後、死んだと思われるホームズが帰還している。右京は和製シャーロック・ホームズと言われているが、同じような頭脳を持つ南井が、自分がホームズで、右京がモリアーティと思っていてもおかしくはないので、「南井の帰還」はあり得る話なのだ。その予想通り、場面が切り替わると、電話で南井を思わせるトレンチコートと革の手袋をし、車椅子に乗った男性と会話する男の姿が。彼は、電話先の男を「父さん」と呼んだ。やはり南井は生きており、息子までいるのだろうか。 亀山は自分がいない間に起こったことで深く感情が揺り動かされ、今も激しく動揺している右京の姿に戸惑っているようだった。10年以上の時を経て再び右京と相棒となった亀山は右京のことを「少し変わったな」と思ってはいただろうが、ここまで大きな断絶を目の前にしたことはなかっただろう。この事件が2人の関係性に少しばかり変化を与えそうである。 ここまできたら、次回はやはり解決編だろう、と意気込んだらどうやらそうではないらしい。解決したとは言い難い事件と南井復活の示唆。長年のファンであればあるほど抱えてしまう嬉しいような、そうでもないような、このなんとも言い難い気持ちを表すのはとても難しい。今後、この続きがありますようにと願うことしかできない。
久保田ひかる