損保業界の「病巣」を取り除くのは簡単ではない 損保ジャパンとあいおいで新たな問題が発覚
今後は適切な比較推奨販売を、自動車販売店などの兼業代理店にも徹底させる考えだ。 ■あいおいへのテリトリー変更 ただ足元では、西日本地域のある「トヨタ自動車系ディーラー」と損保大手の間で、比較推奨販売を歪めかねない事態が起きている。 そのディーラーは複数の販売店を展開しており、損保大手各社の首脳が定期的に挨拶にうかがうほどの有力企業だ。損保との取引は、トヨタとの関係が深いあいおいを中心に、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険の3社で9割超を占めていた。
しかし今年初めに突如、同ディーラーは約3割の契約シェアを持っていた三井住友海上に対して、事実上の取引打ち切りを宣告した。さらに同ディーラーの代表者は、三井住友海上の自動車保険を優先的に販売する「テリトリー店舗」を、すべてあいおいに変更すると明言したという。 なぜ、あいおいに変更するのか。理由は、ディーラー代表者の「娘の夫(A氏)があいおい出身者」(大手損保幹部)だからだ。A氏は今春、あいおいを退職し同ディーラーに役員として入社。時期を同じくして、あいおいへのテリトリー変更も実施されている。
同ディーラーは今後、三井住友海上の契約者が契約を更新する際は、あいおいを推奨し、乗り換えを促すとみられる。 だが、同ディーラーはあいおいを推奨する理由として、「弊社オーナーの親族が、あいおい出身者のため」や「役員にあいおい出身者がいるため」などと顧客に説明できるのだろうか。一方で、「あいおいの商品性が優れているため」などと誤魔化して説明した場合は、ビッグモーターと同様に別の理由を装っていることになり、比較推奨販売を歪めてしまうわけだ。
そもそも、金融庁が比較推奨販売の旗を10年以上にわたって振ってきたにもかかわらず、依然として顧客の意向を置き去りにし、テリトリー店舗ごとにプッシュする保険会社を自在に変えるという販売方針が、横行していることも問題だ。 損保協会の協会長会社として、悪しき商慣習の見直しを訴えるあいおいが、同ディーラーに対して比較推奨販売をどう実効的に指導し、徹底させていくのか。そこに損保業界としての変革への決意が、はっきりと映し出されることになる。
中村 正毅 :東洋経済 記者