ここはまるで自動車ミュージアム! ベントレーS2コンチネンタル・フライングスパーからマクラーレン720Sまで、ブランドを問わずクルマを愛するオーナーのこだわりは、色でした!
最初のクルマはトヨタ・セリカXXだった!
雑誌『エンジン』の人気企画、「2台持つとクルマはもっと楽しい」。茨城県水戸市の自宅を訪ねると、そこはまるで自動車博物館のようだった。発売当時「ショールームで買える世界で最も高価なクルマ」と言われたロールス・ロイス・カマルグをはじめ、美しいクルマがどっさり。一見、バラバラのようなコレクションには色へのこだわりがあった。 【写真35枚】ジャガーEタイプにパンテーラにベントレーにロールス・ロイス! 夢のようなクルマたちが並ぶガーレジの写真はこちら! ◆瀟洒な洋館 常磐道水戸ICを降りてから約15分。訪問時間より少し早く到着したことを電話で告げると、自分はいま職場から向かっているので先に敷地内に入ってもらって構わないと、家の主は言った。シャッターの降りたガレージ脇の道を進むと茶色のレンガ塀が美しい大きな家が現れた。こちらが母屋だろう。母屋の前は中庭になっていて、そこにクルマを停める。中庭をはさんで母屋と向かい合うのは先ほど脇を通過したガレージだ。ガレージの母屋側はガラス張りになっていて、中にポルシェ911ターボ(993)、フェラーリF355スパイダー、ベントレー・ミュルザンヌが見える。すごい、すごいと言いながら望月カメラマンと覗き込んでいると、母屋から奥さんが現れた。「家のガレージも開けますね」と言うと、母屋の1階に設けられたガレージのシャッターがスルスルと上がっていった。 母屋1階のガレージにはクルマが5台収まっていた。アルピナB6Sカブリオ、ジャガーXJ40、アルピナB7ビターボ、ジャガーEタイプシリーズ1、そしてデ・トマソ・パンテーラ。 どれをメインに撮影しようか? などと少し興奮気味に話し合っていると、マセラティ・グランカブリオに乗ったご主人が帰ってきた。 「どうもお待たせしました。遠いところありがとうございます」 にこやかに挨拶するのはここにあるすべてのクルマのオーナー、土田誠さんだ。 「となりのゲストハウスにもクルマがあります。ご覧になりますか?」 きょとんとしている私を土田さんが、どうぞこちらへと促す。 ゲストハウスも3階建ての白い瀟洒な建物だった。1階の大きなシャッターが開くと、なんとそこにもクルマが5台! なんなんだ、ここは! 一瞬、思考が止まった。 「右は1962年のベントレーS2コンチネンタル・フライングスパーです」 土田さんの言葉で我に返る。並んだクルマはベントレーのほか、ロールス・ロイス・カマルグ、メルセデス・ベンツ280SEクーペ、ジャガーXJSコンバーチブル、マクラーレン720Sスパイダーである。 さらにほかのガレージにはデイムラー・ダブルシックス、ロールス・ロイス・コーニッシュ5、マセラティ・ギブリ・スパイダー、シトロエンCXファミリアールなどもあるという。 ◆最初のクルマはセリカXX 1962年のベントレーから最新のハイパーカーまで、この博物館的なラインナップはどうして出来上がったのだろうか? 土田さんに話を伺った。 「自動車の免許を取ったのは19歳のときでした。スーパーカー・ブームにはハマッたとは言えませんね。もちろん、クルマは好きでしたよ。でもまわりがカウンタックだ、512BBだとか言っていても、僕はマセラティ・ボーラやメラクが好きでしたね」 土田さんはいまでもクルマのスペックにあまり興味がない。ベントレーS2コンチネンタル・フライングスパーのエンジンを撮影したときも、V8だったような気がすると言っていた。 「最初のクルマはトヨタ・セリカXX(初代)でした。高校の音楽の先生がこれの黒に乗っていまして、なんてカッコイイんだろう! と思っていたんです。その印象が焼き付いていて、中古を親に買ってもらいました。ボディは白で内装は赤のベロア。昭和のスナックみたいな内装でした(笑)。丸っこいオシリが好きでしたね」 大学院を卒業し、浜松で勤めるようになるとBMW318iカブリオレ(E36)が愛車になった。 「正規輸入は6気筒しかなくて高かったんです。4気筒モデルをオートトレーディングという並行輸入業者から買いました。アメリカから輸入した1台でボディは紺色、内装はクリーム色。カリフォルニア仕様という感じで好きでした。オープンカーが大好きになったきっかけかもしれません」 故郷の水戸に戻って、デイムラー・ダブルシックスの最終モデルを増車、このダブルシックスは土田さんのコレクションのなかで最古参である。 「ブランドでいうとジャガーが好きですかね。いまもシリーズIIIのダブルシックス、XJSコンバーチブル、Eタイプ、XJ40、X300系ダブルシックス・ロングと、ジャガーがもっとも多いですから」 では、持っているクルマのなかで1台だけ選べと言われたら? 「アルピナB6Sカブリオですね。あれは2007年の東京モーターショーに展示されたクルマなんです。初めて乗ったとき、アルピナとBMWは別モノだと思いました。アルピナは脚のしなやかさと速さを高次元で両立していますね。B6Sはスーパーチャージャー過給なんです。そのキーンという金属音がジェット機みたいでアルピナすごい! と思いました。で、B7を買ったらあれはビターボで、ターボはキーン! じゃなかった。そうか、自分はアルピナが好きなんじゃなくてスーパーチャージャーが好きだったんだと買ってからわかりました(笑)」 ◆コンチネンタル3から始まった 乗って一番なのはアルピナB6Sカブリオ、一方ロールス&ベントレーは雰囲気を楽しんでいるという。 「デイムラー・ダブルシックスとベントレー、ロールスはどれぐらい違うんだろう? という興味があって、シーザートレーディングに見に行ったんです。ベントレーのオープンカー、コンチネンタル・シリーズ3がありました。ロールスで言うとコーニッシュですね。デカい! というのが第一印象です。で、ちょっと乗ってみようかなと。いろいろ大げさでしたね(笑)。でもシートは素晴らしかった。毎日は乗れないけど、日常使いしないとカビが生えるみたいなクルマでした。これがロールス&ベントレーのスタートです」 コンチネンタル3の次はロールス・ロイス・シルバーセラフへ。 「セラフは八代亜紀さんのクルマでした。ロイヤル・ブルーの外装にクリーム色のインテリアという組み合わせ。こういう色の組み合わせはなかなかないんですよ。で、このセラフでワクイミュージアムに行ったんです。大雨の日でね。こんな雨の日に来る人は珍しいと涌井さんに歓迎していただきました。そこに先ほど見ていただいたベントレーS2コンチネンタル・フライングスパーがあったんです」 いま気になっているのは、戦前のロールス、ベントレーだという。 「いわゆるダービー・ベントレーというやつですね。1937年製とか。涌井さんの薦めをずっと断ってきましたけど、自分もいい歳だしそろそろ乗っておこうかと。やっぱりイギリス車が好きなんですね」 そういった旧い英国車に興味を抱きながら、最新のハイパーカー、マクラーレン720Sスパイダーもガレージにあるところが土田さんのすごいところである。 「やっぱりデザインが好きなんですね。最も素晴らしいデザインだと思っているのはフェラーリF355スパイダー。ピニンファリーナの傑作ですね。ところが360モデナになると、ちょっとね。マクラーレンで最初に買ったのはMP4-12Cです。フェラーリ458と乗り比べたらマクラーレンの方がはるかに良かった。その後、570GTを買って、それがいまの720Sに。リセール・バリュー最悪のマクラーレンを3台乗り継ぎました(笑)」 ◆色にこだわる スペックよりもデザインだという土田さん。もうひとつのこだわりは色だという。 「もうひとつというか、色が最大のこだわりですね。選択肢があるなら白は買いません。白はボディラインがはっきり出ないからです。ワインレッド、グリーン、シャンパンゴールドの3色が私の好みです」 そういえば、赤や黄色といった原色のクルマは1台もない。マクラーレン720S、ジャガーXJSコンバーチブル、メルセデス・ベンツ280SEクーペ、マセラティ・グランカブリオはどれもワインレッド、アルピナの2台、ジャガーEタイプはグリーンだ。 「いま整備に入っているロールス・ロイス・コーニッシュ5はピンク・ゴールドです。マセラティMC20チェロもピンク・ゴールドで注文しました」 なんと! この博物館的ガレージは色で統一されていたのか! 「クルマは生活の道具というよりも、ファッションに近いですね。自分を表現するものだし、自分のライフスタイルを豊かにしてくれるものです。だからデザインや色にはこだわりたいんです」 それにしてもこれほどの台数、管理はどうしているのだろう? 「整備はそれぞれ購入したところや、知り合いの腕利きメカニックにお願いしています。ただし管理は大変です。車検を切らしちゃったり。メカニックからはクルマをもっと動かせと。今日のようなことがないと、エンジンをかけないクルマも多いから、みなさんには感謝しています」 いつでも呼んでください、動かします! と心のなかで叫んだ。 文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦 (ENGIN2024年2・3月号)
ENGINE編集部
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