認知症の人と心を交わす「バリデーション」の具体的な方法は?【介護の不安は解消できる】
【介護の不安は解消できる】 「バリデーション」は、認知症の方に対して傾聴、受容、共感を通して心と心の交流を図るコミュニケーションの方法です。今回は、在宅介護でも取り入れられる実践法についてお伝えします。 認知機能が低下すると、どうしてゴミ屋敷になってしまうのか 相手への共感が求められるバリデーションは、まずはご自身の心に余裕がなければなりません。実践する前に、深呼吸などをして、ご自身なりの方法でイライラや怒りの感情を静める「センタリング」を行う必要があります。 相手の感情を受け入れる準備ができたら、相手の真正面に座って目をしっかりと見つめ、アイコンタクトを取りましょう。相手の表情、感情をよく観察した上でその方が「(すでに亡くなっている)母に会いたい」と訴えた場合、まず、「お母さんに会いたいのですか?」と相手の言葉に含まれる重要なキーワードを繰り返す「リフレージング」を行います。次に、「お母さんはどこにおられるのですか?」「お母さんはどんな人ですか?」「会ったら何を伝えたいですか?」など、いつ、どこで、誰が、何を、どのようにといった質問を投げかけます。ただし、「なぜ」という質問は避けましょう。 以前、当施設に入居される90代の女性が、深夜に慌てた様子で「今すぐお父さんの手伝いに行かなきゃ!」とスタッフに訴えているのを目にしました。話を聞くと、そのお父さんは都内で焼き鳥屋さんを営んでいるといいます。「お父さんが大変そうに感じるのはどういうとき?」「今すぐ行かなきゃいけないの?」など、いくつか質問を投げかけていると、「そういえば家族のために働きすぎて死んでしまったんだわ……」と涙をこぼされていました。 認知症の方は、心の奥底ではすでに親が亡くなっているのを分かっていながら、親に対する後悔や無念が残っていて「会いたい」や「助けたい」といった言動につながっているケースも少なくありません。 ここまで紹介してきたのはひとつの例にしか過ぎません。認知症の方の状態はさまざまです。バリデーションではその個々の状態に合わせたテクニックを使います。他にも言語的、非言語的テクニックがありますが、いずれにせよ、共感を持ち、相手の気持ちに寄り添うことが何より大切です。 バリデーションを通して心の奥底に隠されていた感情が表出されると、本人の不安やストレスが和らいで落ち着きを取り戻せるだけでなく、介護者側も興奮を引き起こす理由が分かると介護ストレスが軽減されていくのです。 ▽正垣幸一郎(しょうがき・こういちろう)1994年、神戸にある社会福祉法人イエス団賀川記念館で隣保事業、学童保育、1人暮らし老人給食などに携わる。2003年バリデーション「ワーカーコース」「グループリーダーコース」「ティーチャーコース」修了。現在は特別養護老人ホームありすの杜きのこ南麻布で管理者を務める。