こも巻きに「防虫効果なし」!? なぜ続けているのか聞いてみた
松の幹にわらで編んだこもを巻く冬の行事「こも巻き」。越冬する害虫を中におびき寄せる手だてとされるが、近頃は効果が期待できないとして取りやめる地域も出ている。「むしろ益虫を駆除している」との調査結果もあるという。なぜ続けているの? 二十四節気の啓蟄(けいちつ)の5日、縮景園(広島市中区)では恒例のこも外しがあった。松は約360本。同園は「近年は薬剤を注入して虫よけをしているので、特に効果はない。風物詩として続けている」とする。 こも巻きは、松の葉を食べるマツカレハの幼虫を 暖かいわらの中におびきよせる昔ながらの駆除方法だ。10月下旬~11月上旬の霜降の頃に幹に巻き、啓蟄のころに幹から外して焼却する。 ところが、その効果を疑う見方もある。姫路城(兵庫県姫路市)で外したこもの中にいた虫を調べたデータが根拠だ。姫路工業大(現兵庫県立大)の研究者が2002年から5年間に渡り調べた結果、害虫はわずか4%。一方で害虫を食べるクモなどの益虫が57%を占めた。姫路市観光課は「結果も踏まえて、14年冬を最後にこも巻きをやめた」と説明する。 米国の日本庭園専門誌のランキングで21年連続1位に輝く足立美術館(島根県安来市)はどうだろう。担当職員は「この10年ほどやっていない」。中に虫がいなかったのに加え、こもを作る職人が高齢化したのが理由という。2位に入った桂離宮(京都市)は「ソテツの防寒はしているが、松のこも巻きはしたことがない」。5位の皆美館(島根県松江市)も同様にこも巻きをしたことがなかった。 一方で10位の三景園(広島県三原市)は今シーズンも60本以上の松にこもを巻いた。「意味はないですね。あくまで風情を楽しむものです」と担当者。使った後は木の苗にかぶせるなどして再利用している。やはり防虫対策というより、伝統や風物詩を大切にする意味合いが強そうだ。 トップ10入りした中国地方の庭園に尋ねる中、意外な思いを持つ人にもたどりついた。旅館「石亭」(広島県廿日市市)の上野純一社長。こも巻きの効果はなくても「お守りのつもりでやっている」と話す。 どういうことだろう。石亭を訪ねると、庭園の池で悠々と泳ぐコイを見守るようにその松は立っていた。 上野社長と同じ、現在2代目。初代は1991年の台風19号で枝が折れ、さらに根腐れが進んだ。上野社長が先代から本格的に経営を引き継いだ時期だった。「松を失うと石亭は終わりだ」と嘆いた。 93年に「いい松がある」と己斐の造園業者から話をもらい、今の松に出合えた。30年かけて今の姿に育てた松。だから「神棚に札を置くような気持ち」でこもを巻く。どうか末永く元気でいてくれるように―。こもの中に入っているのは、松を大切に思う気持ちだった。
中国新聞社