中国で「SUVを運転する62歳男」が大勢の人を次々とはね、78人を殺傷…!「爆発した高齢者」が「台湾有事」へと誘導される「悪夢のシナリオ」
矛先を突きつけられた習近平の焦り
中国では60歳以上の男性は高齢者に分類されることから、今回の事件は高齢男性が事件を起こしたことになる。中国で広がる高齢者の孤独が関係しているのかもしれない。 日本ではあまり知られていないが、中国では高齢者の自殺率の高さが問題になっている。 都市部では再開発に伴う自宅からの立ち退きが頻発し、見ず知らずの場所に移住させられた高齢者の多くが孤独に苛まれ、挙げ句の果てに自ら死を選ぶケースが急増している。 事件現場は高齢者の溜まり場だった。彼らは大音量で音楽を流しながら数十人が隊列を組んで行進する「爆走団」と呼ばれており、近所の住民にとって迷惑な存在だった(11月14日付RecordChina)。犯人は社会のルールを守らない高齢者を道連れにして「拡大自殺(周りの人を巻き沿いにする自殺)」を図ったのではないだろうか。 中国では年齢を問わず、やり場のない怒りや不満が鬱積している感が強い。 「社会性報復事件を起こす犯罪予備軍の数は億単位に上る」との分析もある(11月13日付RecordChina)。 習近平国家主席は12日「過激な事件の発生を厳格に防ぐ」よう、地方政府などに厳命した。国民の怒りが自らに向かうことを極度に恐れていることだろう。 国内の不満にさらされた国家の指導者がその矛先を対外の「敵」に転化し、しばしば戦争の引き金となったことは過去の歴史が教えるところだ。
現実味を帯びる「台湾侵攻」
中国にとっての目下の敵が、頼清徳総統の率いる台湾であることは言うまでもない。 中国国営TV「中国中央電視台(CCTV)」が放映した台湾侵攻をリアルに伝えるドキュメンタリーシリーズが中国国内で話題を呼んでいる(10月20日付ニューズ・ウィーク日本版)。 米戦略国際問題研究所(CSIS)は10月10日「中国の台湾侵攻で世界全体の国内総生産(GDP)の10%が吹き飛ぶ」とする衝撃的な報告書を公表している。 「中国が台湾を侵攻する」と断言するつもりはないが、世界経済にとって最大の「テールリスク(確率は低いが、発生すると非常に大きな損失が生じるリスク)」であることは間違いない。 中国の社会不安が世界経済に深刻な被害をもたらさないことを祈るばかりだ。 さらに連載記事『習近平、もう手遅れだ…中国19億人の“ケチケチ旅行”が映し出したデフレ経済「悪夢の真相」』でも、国民の置かれるきびしい状況を伝えているので、ぜひ参考としてほしい。
藤 和彦(経済産業研究所コンサルティングフェロー)