いずれ中国がしれっと取り下げる「処理水問題」
外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が11月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日中首脳会談について解説した。
日中首脳会談、「戦略的互恵関係」を確認
アジア太平洋経済協力会議(APEC)出席のため、米サンフランシスコを訪れた岸田総理大臣と中国の習近平国家主席との首脳会談が、11月17日に行われた。
経済が苦しいのだからもっと下手に出るべき中国だが、そうはしない
宮家)中国は焦らすのです。「俺は偉いのだぞ」とね。 飯田)そういうものですか。ずっと「調整中」とされていましたが。 宮家)本当は経済が苦しいわけだから、アメリカと日本が投資を続けてくれないと困るのです。その意味で中国は、もっと下手に出るべきだと思いますが、そこは違う。
2006年に安倍元総理が訪中して打ち出した概念「戦略的互恵関係」
宮家)産経新聞で連載している私のコラム「宮家邦彦のWorld Watch」では「ありえない7つ」と書きましたが、そのうちの1つが、「処理水問題の批判をやめないだろう」ということです。大きな流れで言うと、1972年に共同声明が出て、今までに4つの文書ができた。2006年に安倍さんが1回目の首相を務めた際は、中国に行き「戦略的互恵関係」をつくりました。この戦略的互恵関係は、「中身がないところ」がいいのです。 飯田)中身がないところがいいのですか? 宮家)何だかよくわからないところがいいわけです。歴史や領土などややこしいものが入ってなく、そういう意味では「いい文書」だった。ところが、そのあと政権が代わり、2013年に安倍首相はまた中国へ行くわけです。当時、安倍さんは戦略的互恵関係に帰りたかったのですが、その間に尖閣問題が起きたでしょう。それで中国側は、いわゆる戦略的互恵関係の合意に加え、新たに領土問題や靖国問題を持ち込もうとしてきた。それでこじれて以来、大きな日中首脳レベルの会合で文書がまとまったことはほとんどないと思います。
中国とは「対話を続けること」が大事
宮家)そういう経緯があるので、これから劇的に日中関係がよくなるかと言えば、それは難しいと思います。中国側にそんな気はないのだから、あまり期待値を高めても仕方がない。不愉快ですが、彼らにとって今はアメリカとの関係がいちばん大事なのです。 飯田)中国にとって。 宮家)アメリカとの関係が上手くいけば、日本など何とでもなると思っているかも知れない。しかし、日米の絆は強いです。彼らもそれがわかっているから、何とか日米を分断しようとするのですが、我々はがっちりスクラムを組んでいればなかなか離せません。そうなれば、下手に出てもおかしくないのだけれど、いまの中国にはそれができないのです。そんなことをしたら、「日本相手になぜそんなに弱腰なのだ」と言われてしまうので。 飯田)中国国内で。 宮家)そうかも知れません。いろいろな理由があるでしょう。あまり期待を高めてはいけないけれど、決裂されても困るので、アメリカと同じように日本も中国との対話は続けなくてはいけません。 飯田)対話を続けることが大事。 宮家)我々の原理原則を譲歩する気はないけれど、中国と不必要な衝突や誤算に基づく紛争、戦闘が起こってはいけないので、そうならないように中国と対話し、お互いの立ち位置なり言い分を理解し合う。お互いに同意はしませんが、理解し合って、何とか地域の安定を図ることが大事だと思います。