山田裕貴の表現力は視聴者を虜にする 『君が心をくれたから』太陽役での真っ直ぐな姿勢
屈託なく輝く朝野太陽(山田裕貴)にこれからどんな試練が起こるのかが気がかりで仕方ない。純愛小説で多くの読者の涙を誘った宇山佳佑がオリジナルで脚本を執筆したフジテレビ系月9ドラマ『君が心をくれたから』では、長崎を舞台に、切なさあふれるファンタジーラブストーリーが繰り広げられる。第1話では、永野芽郁演じる雨が「心を差し出す」ことの真相が描かれた。 【写真】『君が心をくれたから』公園で約束をする永野芽郁と山田裕貴 そんな中で印象的だったのは、雨を照らし続ける太陽の存在だ。ロマンチックな学生時代の回想シーンでは、2人がどんな思い出を築いてきたのか、どんな関係を作ってきたのかが丁寧に描かれる。雨が前を向けない時も、太陽はずっと雨を支え続けてきた。太陽の真っ直ぐなキャラクターがあるからこそ、この物語は前に進んでいくのだ。 その太陽を演じるのが山田裕貴。『海賊戦隊ゴーカイジャー』(テレビ朝日系)でジョー・ギブケン/ゴーカイブルー役として俳優デビューを果たしてから、映画やドラマを中心に活躍を続ける。役によって全く違う表情を見せる山田だからこそ、過去の出演作を観ていた視聴者は、同じ人物が演じていたのかと驚くこともあるだろう。山田は幅広い表現で、多くの視聴者を魅了してきた。 近年とりわけ印象的だったのは、主演を務めた『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS系)での萱島直哉役だろう。山田はこの作品で、少しひねくれたところがあり、素直になれないキャラクターを演じた。弟との過去や、混乱の中で的確にリーダーシップをとる意外な一面など、作品全体を通して直哉の人物像が手に取るようにわかるほど綿密な芝居を見せた。その類まれない表現力は、人間が抱える複雑に絡み合った感情、相反する側面を内包した性格を等身大で魅せてくれるため、直哉という青年がまるで私たちのかつての知り合いでもあるかのような感覚にさせられる。 改めて山田の出演作品を振り返れば、彼がどれほど幅広い役を演じてきたのかがわかるだろう。例えば朝ドラ一つとっても、『なつぞら』(NHK総合)の純粋で真っ直ぐな雪次郎役と『ちむどんどん』(NHK総合)の堅物で消極的すぎる教師・博夫役では、見事なまでに印象が違う。そして主演を務めた『ここは今から倫理です。』(NHK総合)における高柳役では、あくまでも静かに、押し付けることなく生徒に寄り添う姿が印象的であった。 2023年には、ゴールデン・プライム帯の2本の連続ドラマに立て続けに挑んだ山田。1月期ドラマ『女神の教室~リーガル青春白書~』(フジテレビ系)での藍井仁役と前述の4月期ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』の直哉役では、ビジュアルもさることながら感情の表出という点において全くベクトルの違う個性を打ち出していた。どの役でも、山田は奥深い解釈により変幻自在に役と一体化し、その心の内を視聴者に切実に伝えてくれるのだ。それは時代劇においても変わることがない。大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合)では本多忠勝役を好演し、大河ファンを楽しませてくれたことも記憶に新しい。 『君が心をくれたから』で雨を演じる永野とは、『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)で共に警察官として出演していたことから、今回が2度目の共演となる。第1話の時点で太陽がどれだけ真っ直ぐ雨に気持ちを伝えてきたのか、2人がお互いの存在をどれだけ支えに感じてきたのかが切々と伝わり、永野と芝居の掛け合いを通して作品の新たな魅力がどんどん引き出されているように感じた。 時に心苦しくなるシーンもあるが、私たちが「人を大切にする」ことや「当たり前の日常」を改めて省みるきっかけにもなる本作。太陽や雨と一緒に心を痛め、時に希望を抱き、前に進むことで、3カ月後には私たち自身も新しい自分を見つけられるかもしれないと感じた。
リアルサウンド編集部